電池はなぜ高い?材料費から値段を考える【電池パック価格の推移つき】

確認日 2026年10月11日 / 読む時間 約8分

目次
  1. 1kWhって何?
  2. 電池の中身:6つの材料
  3. 「材料費から考える」とは
  4. 値段は、どれだけ下がったか
  5. 材料費と、完成品の値段の差
  6. テスラは、どう縮めようとしたか
  7. よくある質問
  8. まとめ
  9. 出典

電気自動車の電池パックの平均価格は、2010年ごろの1kWhあたり1,200ドル超から、2025年には108ドルまで下がりました(BloombergNEF調べ)。この値段は、「材料の値段を足し算」しただけでは決まりません。材料を電池用に加工し、工場で作り、パックに組み立て、研究開発や利益も加わって、はじめて完成品の値段になります。

電池の値段は、どう積み上がる?材料、精製・加工、セルを作る、パックに組み立てる、研究開発・利益などの順に積み上がって、完成品の値段になる図解
図1:電池の値段が積み上がる順番(AI生成のイメージ)。

前の記事「第一原理思考とは?」で、マスクが「電池を材料の値段から考えた」と語った話を紹介しました。この記事では、その「材料の値段」とは何なのか、電池の中身を見ながら、順番に説明します。電池パックの値段が下がってきた歴史も、数字で確かめます。

1kWhって何?

電池の値段を話すときは、よく「1kWh(キロワットアワー)あたり、いくら」という言い方をします。kWhは、電気の量を表す単位です。

つまり、「1kWhあたりの値段」は、電池の値段を、電気をためられる量で割ったものです。電池の大きさが違っても、値段を比べられます。

電池の中身:6つの材料

リチウムイオン電池の中には、おもに次の材料が入っています(2013年の電池の技術論文での整理に基づきます)。

電池の断面図。正極(リチウムを含む金属の酸化物)、負極(おもに黒鉛)、電解液、セパレーター、集電体(アルミ箔と銅箔)、外装缶
図2:電池の中身(AI生成のイメージ。構造を分かりやすくした模式図で、実物の寸法や巻き方とは異なります)。
材料役割
正極リチウムを含む金属の酸化物。電気をためる主役のひとつ。
負極おもに黒鉛(グラファイト)。リチウムを出し入れする。
電解液リチウム塩を、有機溶媒に溶かした液体。イオンが行き来する道になる。
セパレーターポリエチレンやポリプロピレンの、小さな穴のある薄い膜。正極と負極が触れないようにして、イオンだけ通す。
集電体正極側はアルミ箔、負極側は銅箔。電気(電子)を外へ導く。
外装缶形を保ち、液もれを防ぐ。

前の記事で紹介した「タブレス」は、この集電体から電気を取り出すやり方の工夫です(タブレスとは?)。

「材料費から考える」とは

「材料費から考える」とは、電池の中に入っている材料を、それぞれ市場の値段で買って、足し算することです。カレーの材料(米、肉、野菜、ルー)を足し算するのと、同じ発想です。

マスクは、2012年のKevin Rose氏とのインタビューで、次のような趣旨を語りました(要旨)。電池パックは、歴史的には1kWhあたり約600ドルかかってきた。しかし、材料を市場価格で足し算すると、約80ドルだ。この数字は、マスク本人の説明で、第三者の資料による確認はできていません。

ここで大事なのは、「材料の足し算」が、そのまま「作れる値段」ではない、という点です。次の章で、実際の電池パックの値段の移り変わりを見て、そのあと、差が生まれる理由を考えます。

値段は、どれだけ下がったか

電池パックの平均価格は、BloombergNEF(ブルームバーグNEF、エネルギーの調査会社)が、毎年調査して発表しています。

電池パックの平均価格(US$/kWh) 1,200超 2010年ごろ … 137 2020 132 2021 151 2022 139 2023 115 2024 108 2025 出典:BloombergNEF Battery Price Survey(毎年の発表)。2010年と2020年の間の年は省略。棒の高さは金額に比例。
図3:電池パックの平均価格の推移(BloombergNEFの発表値。2011〜2019年は省略しています)。
年電池パックの平均価格(US$/kWh)
2010年ごろ1,200超
2020年137
2021年132
2022年151(前年より上昇)
2023年139
2024年115
2025年108(記録的な低さと発表)

たとえば、60kWhの電池パックだとします。1kWhあたり1,200ドルなら、電池だけで約7万2千ドルです。108ドルなら、約6千5百ドルです。電気自動車が手の届く値段になってきた背景には、この値段の下落があります。

ただし、値段は一直線に下がったわけではありません。2022年には、前の年より上がっています。

材料費と、完成品の値段の差

では、マスクの言う「材料費は約80ドル」と、「電池パックの価格は数百ドル」の差は、何でしょうか。電池の技術論文などでは、材料費のほかに、次のようなものが加わる、と整理されています。

ここは筆者の読み解きです(確認した事実ではありません)

2013年の電池の論文には、18650型という電池を大量に作る想定で、「電池用に加工された材料」が、セルの費用の約8割(78〜80%)を占めるという推計があります。一方、マスクの「約80ドル」は、加工する前の、原材料の市場価格の話に聞こえます。「材料費」という言葉が指す範囲が違うために、数字が大きく違って見える可能性があります。ただし、これは筆者の推測で、マスクの発言の内訳を確かめたわけではありません。

ここから分かるのは、「材料の足し算」は、出発点として便利だが、完成品の値段そのものではないということです。前の記事で紹介した、「第一原理は出発点であって、答えそのものではない」という注意と、同じ話です。

テスラは、どう縮めようとしたか

テスラは、2020年9月のBattery Day(電池に関する技術発表)で、電池の作り方を見直して、コストを大きく減らす計画を示した、とされています。複数の技術を組み合わせることで、コストを約56%減らせる可能性がある、という趣旨です。公式スライドの該当ページは、私たちはまだ確認できていません。

その中身には、前の記事で紹介した、タブレスの大きなセル(4680セル)や、電極の作り方の見直しなどが含まれます。それぞれは、このシリーズで、順番に説明していきます。

よくある質問

電池が高いのは、レアメタルのせいですか?

材料の値段は、確かに一部です。ただし、この記事で見たように、材料を加工し、工場で作り、組み立てる費用も、大きな部分を占めます。どれくらいの割合かは、前提によって大きく変わります。

電池の値段は、これからも下がりますか?

この記事では、予測はしません。2022年のように、上がった年もありました。確認できているのは、2010年ごろから2025年までに、長い目で見て大きく下がってきた、という事実です。

マスクの「約80ドル」は、正しい数字ですか?

マスク本人の説明として紹介しています。第三者の資料で、同じ前提の数字を確認することは、できていません。

まとめ

次の記事では、「ロケットは高いのか?」を、同じ考え方で分解します。

出典(確認日 2026-10-11)

この記事は、科学技術の学習を目的としたもので、投資の助言ではありません。また、マスク本人の考えを確認したものではなく、筆者の読み解きです。図1・図2はAIで生成したイメージです。