ロケットは本当に高いのか?打ち上げの値段と、費用の内訳を、材料から考える

確認日 2026年10月13日 / 読む時間 約9分

目次
  1. 「高い」は、何と比べて?
  2. スペースシャトル:1回あたり約15億ドル
  3. いまのNASAのロケット SLS:1回あたり約41億ドル
  4. ファルコン9:公表価格は7,000万ドル前後
  5. マスクの発言:「材料は、費用の2%以下」
  6. NASAの推計:開発費は、10分の1?
  7. 第一原理で、分けて考える
  8. よくある質問
  9. まとめ
  10. 出典(確認日 2026-10-13)

スペースシャトルの打ち上げは、数え方しだいで、1回あたり約7.6億〜15億ドル。NASAのSLSは、約41億ドルと推計されています。ファルコン9の標準価格は、2022年に6,700万ドル、2026年に7,400万ドルです。マスクは、ロケットの構造の材料は総費用の2%以下、燃料は約0.3%と語っています。ただし、条件のちがう数字は、そのまま比べられません。

ロケットの値段の比較。スペースシャトルは1回あたり約15億ドル(開発費などを含む)、運用だけで約8億4,700万ドル。ファルコン9の標準価格は2022年6,700万ドル、2025年7,000万ドル、2026年7,400万ドル
図1:ロケットの打ち上げの値段(AI生成のイメージ。数字は、AP通信とSpaceflight Nowによる。条件がちがうため、単純な比較はできません)。

「ロケットは高い」。この言葉は、よく聞きます。では、どれくらい高いのでしょうか。そして、何に、お金がかかっているのでしょうか。

この記事では、第2話(電池の値段)の「材料の足し算」の考え方を、ロケットに使います。まず、出典のはっきりした数字を並べ、そのあとで、マスクが言った「材料は2%」という話を確かめます。

「高い」は、何と比べて?

数字を並べる前に、注意が1つあります。ロケットの「値段」は、次のようにばらばらです。

  • 価格(お客さんが払う額)と、費用(作る側がかかる額)は、別物です。
  • 運べる重さと、行き先の軌道で、値段が変わります。
  • 年によって、ドルの価値が変わります。
  • 開発費を含めるかで、数字が大きく変わります。

だから、以下の数字は、並べて眺めるためのもので、「どちらが何倍」と言い切るためのものではありません。

スペースシャトル:1回あたり約15億ドル

アメリカの通信社AP(2011年)によると、スペースシャトル計画は、約40年で1,960億ドルを使い、135回飛びました。

  • 設計・建造・改修の費用も含めて割ると、1回あたり約15億ドル。
  • 初期の費用と改修を除いた、運用だけの平均は、約8億4,700万ドル。

(ドルの基準年は、記事に書かれていません。)

NASAの監察総監室(OIG)の2014年の報告書も、シャトルの1回あたりの費用に触れています。2000年の法律は、シャトルの1回あたりの費用の上限を3億8,000万ドルと定めていました。しかし、2001年8月の米国政府監査院(GAO)の調べでは、実際は約7億5,900万ドルに近かった、と書かれています。同じシャトルでも、「何を数えるか」で、約7.6億ドル、約8.5億ドル、約15億ドルと、数字が大きく変わります。

シャトルは、一部の部品を再使用する乗り物でしたが、1回ごとの整備に、大きな費用がかかったと考えられます。ただし、その内訳は、この記事の出典では確認できていません。

いまのNASAのロケット SLS:1回あたり約41億ドル

NASAの月へ向かう計画(アルテミス)で使う、大型ロケットのSLSについては、NASAの監察総監室(OIG)が、2021年11月の報告書で、次のように推計しています。

  • SLSとオリオン宇宙船を1回飛ばす費用は、少なくともアルテミスIVまでで、1回あたり約41億ドル(約1年に1回のペースの場合)。
  • 内訳は、SLSロケット本体(使い捨て)が約22億ドル、オリオン宇宙船が約10億ドル、欧州が出すサービスモジュールが約3億ドル、地上設備が年間約5億6,800万ドル。

SLSは、ロケット本体を、1回ごとに使い捨てます。

ファルコン9:公表価格は7,000万ドル前後

スペースXの公式ページ「Capabilities and Services」には、ファルコン9の標準の支払いプランの価格が載っています。静止トランスファー軌道へ5.5トンまでの場合の額を、Spaceflight Nowが、次のように報じています(2026年2月24日)。

年標準価格(ドル)
2022年6,700万
2025年7,000万
2026年7,400万

2022年のページには、インフレによる将来の値上げの可能性が書かれていた、とも同じ記事は伝えています。つまり、ファルコン9の価格は、ここ数年、少しずつ上がっています。

また、同じ記事は、Ars Technicaの報道として、再使用するファルコン9の、SpaceXの内部の費用は、約1,500万ドルと伝えています。これはSpaceXの公式の数字ではなく、報道による数字です。

並べて見ると

シャトル約15億ドル(開発費などを含む)と、ファルコン9の約7,000万ドル(標準の価格)は、運べる重さも、時代も、数え方も、ちがいます。それでも、1けた以上の差があることは、見て取れます。

マスクの発言:「材料は、費用の2%以下」

ここで、マスクの有名な話です。ある会議(All Things Digital)で、マスクは、次のように語ったと、SpaceNewsが報じています。

マスクの発言(報道による要旨)

燃料は、ロケットの総費用の約0.3%。構造をつくる材料は、多くても2%。ファルコン9の価格は約6,000万ドル。「材料の組み合わせ方に、愚かなことをしていた」。

(原文の一部:"Clearly people were doing something silly in how they put those materials together.")

つまり、マスクの主張は、「高い理由は、材料ではなく、作り方にある」というものです。これは、第1話の記事「第一原理思考とは?」で紹介した、「材料費は約2%」の話と、同じです。

ただし、ここは、注意が必要です。

  • この数字は、マスク本人の説明です。第三者が検証した資料は、この記事の出典では確認できていません。
  • この会議の日付は、私は確認できていません。記事の本文も、検索結果に出た引用の範囲でしか読めていません。

NASAの推計:開発費は、10分の1?

もう1つ、公的な資料の数字があります。NASAは、2010年の報告書で、ファルコン9を、NASAが従来の方式で開発したら、いくらかかるかを、費用モデル(NAFCOM)で推計しました。

  • 従来の方式:40億ドル。
  • より民間に近い方式:17億ドル。
  • SpaceXが公表した、実際の開発費:ファルコン9が約3億ドル、ファルコン1が約9,000万ドルで、合計約3億9,000万ドル。NASAは、この費用を確認した、と書いています。

(この数字は、NASAのEdgar Zapataの2017年の論文が、2010年の報告書を引用して紹介しているものです。)

ファルコン9の開発費。NASAの推計は、従来の方式で40億ドル、民間に近い方式で17億ドル。SpaceXが公表した実際は約3億9,000万ドル(ファルコン9が約3億ドル、ファルコン1が約9,000万ドル)
図2:ファルコン9の開発費の、NASAの推計と、実際(AI生成のイメージ)。

NASAは、実際の費用が、なぜ、これほど低かったのかを、詳しくは分析できていない、とも書いています。「NASAの手続きの少なさ、監督の少なさ、間接費の少なさなど、民間との協力の形が理由かもしれない。ほかの理由もありえる」という書き方です。

第一原理で、分けて考える

ここまでの話を、第一原理の3ステップ(当たり前を書き出す→根っこまで分解する→組み立て直す)で整理します。

  1. 当たり前を書き出す:ロケットは、国や大企業のもので、高く、1回で捨てるもの。
  2. 根っこまで分解する:値段は、何でできているか。マスクの説明では、材料が2%以下、燃料が0.3%。残りの約98%は、材料ではない。
  3. 組み立て直す:残りは、作り方、人、設備、試験、運用、そして、捨てることにある。ならば、そこを変えれば、安くできるはず。
ロケットの費用の内訳(マスクの説明)。構造の材料は2%以下、燃料は約0.3%、残りの約98%は材料以外(人、設備、試験、運用など)
図3:ロケットの費用の内訳(マスクの説明。AI生成のイメージ)。
筆者の読み解き(確認した事実ではありません)

「材料は2%」は、電池の「材料の足し算」と同じで、出発点です。残りの約98%の中身(人件費、製造、運用、保険、射場など)を、信頼できる数字で分けた資料は、今回は確認できていません。そこで、「高い理由は作り方にある」は、問いとしては筋が通っていても、証明された結論とまでは言えません。今後の記事で、この残りの部分を、もう少し掘っていきます。

よくある質問

結局、ロケットは高いのですか?

条件しだいです。シャトルは、1回あたり約15億ドル(開発費などを含む)と報じられました。ファルコン9の標準価格は、約7,000万ドル前後です。ただし、運ぶ重さ、時代、数え方がちがうため、単純な倍率では言えません。

「材料は2%」は、正しい数字ですか?

マスク本人の説明で、第三者の検証は、この記事の出典では確認できていません。「材料の足し算は出発点で、答えではない」という、第一原理の注意と同じです。

ファルコン9は、再使用すると、いくら安くなりますか?

この記事では、確認できていません。再使用する機体の内部の費用が約1,500万ドル、という報道はありますが、SpaceXの公式の数字ではありません。

まとめ

  • スペースシャトル:1回あたり約15億ドル(開発費などを含む)。運用だけでは、約8億4,700万ドル(AP、2011年)。GAOの2001年の調べでは、約7億5,900万ドル(NASA OIG、2014年)。
  • SLS(アルテミス):1回あたり約41億ドル(NASA OIG、2021年。SLS本体約22億、オリオン約10億、サービスモジュール約3億、地上設備約5.7億)。
  • ファルコン9の標準価格:2022年6,700万ドル、2025年7,000万ドル、2026年7,400万ドル(Spaceflight Now)。
  • マスクの説明:材料は2%以下、燃料は約0.3%(SpaceNews。本人の説明で、第三者の検証は未確認)。
  • NASAの推計:ファルコン9の開発費は、従来の方式で40億ドル、実際は約3億9,000万ドル。理由は、NASAも詳しくは分析していない。
  • 値段の比較は、重さ・軌道・年・数え方のちがいに、注意が必要。

次の記事:同じ考え方を、ロケットから「車」に移します。「車を第一原理で分解する」(準備中)。

出典(確認日 2026-10-13)

この記事は、科学技術と企業の歴史の学習を目的としたもので、投資の助言ではありません。事実と筆者の読み解きは、区別して書いています。図はAIで生成したイメージです。