スペースシャトルの打ち上げは、数え方しだいで、1回あたり約7.6億〜15億ドル。NASAのSLSは、約41億ドルと推計されています。ファルコン9の標準価格は、2022年に6,700万ドル、2026年に7,400万ドルです。マスクは、ロケットの構造の材料は総費用の2%以下、燃料は約0.3%と語っています。ただし、条件のちがう数字は、そのまま比べられません。

「ロケットは高い」。この言葉は、よく聞きます。では、どれくらい高いのでしょうか。そして、何に、お金がかかっているのでしょうか。
この記事では、第2話(電池の値段)の「材料の足し算」の考え方を、ロケットに使います。まず、出典のはっきりした数字を並べ、そのあとで、マスクが言った「材料は2%」という話を確かめます。
「高い」は、何と比べて?
数字を並べる前に、注意が1つあります。ロケットの「値段」は、次のようにばらばらです。
- 価格(お客さんが払う額)と、費用(作る側がかかる額)は、別物です。
- 運べる重さと、行き先の軌道で、値段が変わります。
- 年によって、ドルの価値が変わります。
- 開発費を含めるかで、数字が大きく変わります。
だから、以下の数字は、並べて眺めるためのもので、「どちらが何倍」と言い切るためのものではありません。
スペースシャトル:1回あたり約15億ドル
アメリカの通信社AP(2011年)によると、スペースシャトル計画は、約40年で1,960億ドルを使い、135回飛びました。
- 設計・建造・改修の費用も含めて割ると、1回あたり約15億ドル。
- 初期の費用と改修を除いた、運用だけの平均は、約8億4,700万ドル。
(ドルの基準年は、記事に書かれていません。)
NASAの監察総監室(OIG)の2014年の報告書も、シャトルの1回あたりの費用に触れています。2000年の法律は、シャトルの1回あたりの費用の上限を3億8,000万ドルと定めていました。しかし、2001年8月の米国政府監査院(GAO)の調べでは、実際は約7億5,900万ドルに近かった、と書かれています。同じシャトルでも、「何を数えるか」で、約7.6億ドル、約8.5億ドル、約15億ドルと、数字が大きく変わります。
シャトルは、一部の部品を再使用する乗り物でしたが、1回ごとの整備に、大きな費用がかかったと考えられます。ただし、その内訳は、この記事の出典では確認できていません。
いまのNASAのロケット SLS:1回あたり約41億ドル
NASAの月へ向かう計画(アルテミス)で使う、大型ロケットのSLSについては、NASAの監察総監室(OIG)が、2021年11月の報告書で、次のように推計しています。
- SLSとオリオン宇宙船を1回飛ばす費用は、少なくともアルテミスIVまでで、1回あたり約41億ドル(約1年に1回のペースの場合)。
- 内訳は、SLSロケット本体(使い捨て)が約22億ドル、オリオン宇宙船が約10億ドル、欧州が出すサービスモジュールが約3億ドル、地上設備が年間約5億6,800万ドル。
SLSは、ロケット本体を、1回ごとに使い捨てます。
ファルコン9:公表価格は7,000万ドル前後
スペースXの公式ページ「Capabilities and Services」には、ファルコン9の標準の支払いプランの価格が載っています。静止トランスファー軌道へ5.5トンまでの場合の額を、Spaceflight Nowが、次のように報じています(2026年2月24日)。
| 年 | 標準価格(ドル) |
|---|---|
| 2022年 | 6,700万 |
| 2025年 | 7,000万 |
| 2026年 | 7,400万 |
2022年のページには、インフレによる将来の値上げの可能性が書かれていた、とも同じ記事は伝えています。つまり、ファルコン9の価格は、ここ数年、少しずつ上がっています。
また、同じ記事は、Ars Technicaの報道として、再使用するファルコン9の、SpaceXの内部の費用は、約1,500万ドルと伝えています。これはSpaceXの公式の数字ではなく、報道による数字です。
シャトル約15億ドル(開発費などを含む)と、ファルコン9の約7,000万ドル(標準の価格)は、運べる重さも、時代も、数え方も、ちがいます。それでも、1けた以上の差があることは、見て取れます。
マスクの発言:「材料は、費用の2%以下」
ここで、マスクの有名な話です。ある会議(All Things Digital)で、マスクは、次のように語ったと、SpaceNewsが報じています。
燃料は、ロケットの総費用の約0.3%。構造をつくる材料は、多くても2%。ファルコン9の価格は約6,000万ドル。「材料の組み合わせ方に、愚かなことをしていた」。
(原文の一部:"Clearly people were doing something silly in how they put those materials together.")
つまり、マスクの主張は、「高い理由は、材料ではなく、作り方にある」というものです。これは、第1話の記事「第一原理思考とは?」で紹介した、「材料費は約2%」の話と、同じです。
ただし、ここは、注意が必要です。
- この数字は、マスク本人の説明です。第三者が検証した資料は、この記事の出典では確認できていません。
- この会議の日付は、私は確認できていません。記事の本文も、検索結果に出た引用の範囲でしか読めていません。
NASAの推計:開発費は、10分の1?
もう1つ、公的な資料の数字があります。NASAは、2010年の報告書で、ファルコン9を、NASAが従来の方式で開発したら、いくらかかるかを、費用モデル(NAFCOM)で推計しました。
- 従来の方式:40億ドル。
- より民間に近い方式:17億ドル。
- SpaceXが公表した、実際の開発費:ファルコン9が約3億ドル、ファルコン1が約9,000万ドルで、合計約3億9,000万ドル。NASAは、この費用を確認した、と書いています。
(この数字は、NASAのEdgar Zapataの2017年の論文が、2010年の報告書を引用して紹介しているものです。)

NASAは、実際の費用が、なぜ、これほど低かったのかを、詳しくは分析できていない、とも書いています。「NASAの手続きの少なさ、監督の少なさ、間接費の少なさなど、民間との協力の形が理由かもしれない。ほかの理由もありえる」という書き方です。
第一原理で、分けて考える
ここまでの話を、第一原理の3ステップ(当たり前を書き出す→根っこまで分解する→組み立て直す)で整理します。
- 当たり前を書き出す:ロケットは、国や大企業のもので、高く、1回で捨てるもの。
- 根っこまで分解する:値段は、何でできているか。マスクの説明では、材料が2%以下、燃料が0.3%。残りの約98%は、材料ではない。
- 組み立て直す:残りは、作り方、人、設備、試験、運用、そして、捨てることにある。ならば、そこを変えれば、安くできるはず。

「材料は2%」は、電池の「材料の足し算」と同じで、出発点です。残りの約98%の中身(人件費、製造、運用、保険、射場など)を、信頼できる数字で分けた資料は、今回は確認できていません。そこで、「高い理由は作り方にある」は、問いとしては筋が通っていても、証明された結論とまでは言えません。今後の記事で、この残りの部分を、もう少し掘っていきます。
よくある質問
結局、ロケットは高いのですか?
条件しだいです。シャトルは、1回あたり約15億ドル(開発費などを含む)と報じられました。ファルコン9の標準価格は、約7,000万ドル前後です。ただし、運ぶ重さ、時代、数え方がちがうため、単純な倍率では言えません。
「材料は2%」は、正しい数字ですか?
マスク本人の説明で、第三者の検証は、この記事の出典では確認できていません。「材料の足し算は出発点で、答えではない」という、第一原理の注意と同じです。
ファルコン9は、再使用すると、いくら安くなりますか?
この記事では、確認できていません。再使用する機体の内部の費用が約1,500万ドル、という報道はありますが、SpaceXの公式の数字ではありません。
まとめ
- スペースシャトル:1回あたり約15億ドル(開発費などを含む)。運用だけでは、約8億4,700万ドル(AP、2011年)。GAOの2001年の調べでは、約7億5,900万ドル(NASA OIG、2014年)。
- SLS(アルテミス):1回あたり約41億ドル(NASA OIG、2021年。SLS本体約22億、オリオン約10億、サービスモジュール約3億、地上設備約5.7億)。
- ファルコン9の標準価格:2022年6,700万ドル、2025年7,000万ドル、2026年7,400万ドル(Spaceflight Now)。
- マスクの説明:材料は2%以下、燃料は約0.3%(SpaceNews。本人の説明で、第三者の検証は未確認)。
- NASAの推計:ファルコン9の開発費は、従来の方式で40億ドル、実際は約3億9,000万ドル。理由は、NASAも詳しくは分析していない。
- 値段の比較は、重さ・軌道・年・数え方のちがいに、注意が必要。
次の記事:同じ考え方を、ロケットから「車」に移します。「車を第一原理で分解する」(準備中)。
出典(確認日 2026-10-13)
- NASA 監察総監室(OIG)「Extending the Operational Life of the International Space Station Until 2024」(IG-14-031、2014年9月18日。シャトルの費用の上限と、GAOの調べに言及): https://oig.nasa.gov/docs/IG-14-031.pdf
- NASA 監察総監室(OIG)「NASA's Management of the Artemis Missions」(IG-22-003、2021年11月15日。SLS・オリオンの1回あたり約41億ドル): https://oig.nasa.gov/docs/IG-22-003.pdf
- AP通信(NBC News掲載)「Shuttle cost: More than AIG bailout, less than war」(2011年): https://www.nbcnews.com/news/amp/wbna43631772
- Spaceflight Now(2026年2月24日、ファルコン9の価格と、再使用機の内部の費用): https://spaceflightnow.com/2026/02/24/live-coverage-spacex-to-launch-29-starlink-satellites-on-falcon-9-rocket-from-cape-canaveral-8/
- SpaceNews(All Things Digital会議でのマスクの発言。日付は未確認): https://spacenews.com/?p=13131
- Edgar Zapata(NASA ケネディ宇宙センター)「An Assessment of Cost Improvements in the NASA COTS/CRS Program and Implications for Future NASA Missions」(2017年、AIAA。NASAの2010年「Commercial Market Assessment for Crew and Cargo Systems」を引用): https://ntrs.nasa.gov/api/citations/20170008895/downloads/20170008895.pdf
この記事は、科学技術と企業の歴史の学習を目的としたもので、投資の助言ではありません。事実と筆者の読み解きは、区別して書いています。図はAIで生成したイメージです。