イージージェット(easyJet)は2026年10月26日、スターリンクの機内Wi-Fiを、2027年前半から同社のA320、A320neo、A321neoの機体に順に取り付け、2028年初めまでに終える見込みだと発表しました。同社が機内でインターネットを提供するのは初めてです。乗客は自分のスマホやパソコンで、地上と同じように動画を見たり、ゲームをしたり、ウェブを見たりできるとしています。
3行まとめ
- ヨーロッパの格安航空会社イージージェットは2026年10月26日、スペースXのスターリンクを使った機内Wi-Fiを、2027年前半からA320、A320neo、A321neoの機体に入れ始め、2028年初めまでに終える見込みだと発表しました。同社にとって、初めての機内インターネットです。
- イージージェットは年に約1億人(2025年)が乗る航空会社です。乗客は自分の端末で、動画、ゲーム、ウェブを使えるようになり、運航状況の確認や、座席からの機内販売の注文にも使える可能性があるとしています。
- 速さの理由は、衛星が近い(低軌道)ことと、電波の向きを電子的に変えるアンテナで、動く飛行機から動く衛星を追い続けることです。
前提知識:通信の「速さ」には2種類ある
通信速度(帯域)は、1秒間に運べるデータの量です。単位はMbps(メガビーピーエス、1秒に100万ビット)や、Gbps(ギガビーピーエス、1秒に10億ビット。1Gbps=1,000Mbps)です。水道にたとえると、管の太さです。太い管ほど、一度にたくさんの水(データ)を流せます。動画を見る、大きなファイルを送る、といった用途では、この太さが効きます。
遅延(レイテンシー)は、データを送ってから、相手に届いて返事が戻ってくるまでの時間です。単位はミリ秒(1,000分の1秒)です。水道でいえば、蛇口をひねってから水が出てくるまでの時間です。管がどんなに太くても、管が長ければ、最初の水が出るまで待たされます。ビデオ会議やオンラインゲームのように、すぐに返事が欲しい用途では、こちらが効きます。
衛星までの距離が、遅延を大きく左右します。昔からの機内Wi-Fiの多くは、赤道の上空、高度約3万6,000キロメートルにある静止衛星を使ってきました。地上から見て止まって見えるので、アンテナの向きを合わせやすい反面、遠いのが弱点です。電波は光と同じ秒速約30万キロメートルで進みます。ぼくの計算だけど、飛行機→衛星→地上局と行き、返事が地上局→衛星→飛行機と戻ると、距離は約3万6,000キロメートル×4=約14万4,000キロメートル。これだけで約0.48秒かかります。一方、スターリンクの衛星は、高度数百キロメートルの低軌道を回っています。例として高度550キロメートルで同じ計算をすると、約2,200キロメートルで、約0.007秒です。電波が行き来するだけの時間で、約70倍の差がつきます。
分け合う計算も知っておくと役に立ちます。機内のWi-Fiは、飛行機の屋根の上のアンテナ1つ分の通信を、乗っている全員で分け合います。ぼくの計算だけど、1機あたり1Gbps(1,000Mbps)の通信があり、180人が同時に使ったとすると、1人あたり約5.5Mbpsです。全員が同時に大量に使うことは少ないので、実際の体感はこれより良くなりやすいですが、「1機の太さを、何人で分けるか」で決まる、という考え方が大切です。
何が起きたか
| 項目 | 内容(イージージェットの発表、2026年10月26日) |
|---|---|
| 提供するもの | スターリンクの高速な機内インターネット(同社で初めての機内Wi-Fi) |
| 対象の機体 | A320、A320neo、A321neo |
| 時期 | 2027年前半から取り付け開始、2028年初めまでに完了の見込み |
| 使い方 | 乗客が自分の端末で、動画、ゲーム、ウェブ |
| ほかの使い道 | アプリやウェブで運航状況を確認、目的地の天気・交通・観光の情報、座席から機内販売を注文できる可能性 |
| 会社の規模 | 2025年の乗客1億人、350機以上、1,200以上の路線、35か国の160以上の空港 |
イージージェットのケントン・ジャービス最高経営責任者(CEO)は、休暇の旅行者が機内で楽しむためにも、出張の客が地上の動きについていくためにも、「つながっていること」が大事になっている、と述べています。スペースXのグウィン・ショットウェル社長兼最高執行責任者(COO)は、離陸から着陸まで速く安定した通信で、仕事、動画、連絡が途切れずにできる、と述べています。
発表で挙げられた機体はA320、A320neo、A321neoで、同社の古い小型機A319は含まれていません。
なぜ重要か
1つ目は、格安航空会社が「全機に入れる」と決めたことです。イージージェットは、これまで機内でインターネットを一切提供してこなかった会社です。座席の広さや機内サービスを削って運賃を下げる格安航空会社にとって、機体ごとの工事と通信の費用は重い負担です。それでも、主力の機体すべてに入れると決めました。発表は、出張の客を含め、より多くの客を呼び込む狙いを挙げています。
2つ目は、「機内Wi-Fiは遅いもの」という前提が変わりつつあることです。前提知識で見たとおり、遠い静止衛星を使う方式では、遅延が大きく、ビデオ会議やゲームは苦手でした。低軌道の衛星なら、地上の回線に近い使い心地になります。発表が「地上と同じように」と書いているのは、この違いです。
3つ目は、一度は見送った会社が、方針を変えたことです。2026年1月には、ジャービスCEOが、スターリンクとの話し合いはしているが、今のところ採算が合わない、と話したと報じられていました。それから約9か月で、採用を発表しました。
技術・しくみ:動く飛行機から、動く衛星をつかまえ続ける
スターリンクの航空向けの公式ページ(2026年10月27日に確認)は、航空機用の「Performance」キットの性能を、次のように示しています。
| 項目 | 公式ページの数字 |
|---|---|
| 下り(ダウンロード) | 最大1Gbps |
| 上り(アップロード) | 最大100Mbps |
| 遅延 | 約20ミリ秒 |
| 実績 | 20万便以上のフライトで提供。航空会社向けの機器で3万便を超える運航実績 |
| 衛星どうしのレーザー | 9,000基以上。1リンクあたり100Gbps、最大5,300キロメートル離れた衛星どうしをつなぐ。1日に10ペタビット超を運ぶ |
速さはいずれも「最大」で、保証ではなく、混み合うと下がる、と公式ページに書かれています。
難しさは、両方が動いていることです。旅客機は時速800キロメートル前後で飛び、低軌道の衛星は秒速約7.5キロメートル(時速約2万7,000キロメートル)で空を横切ります。1機の衛星が見えている時間は数分なので、通信しながら、次々と別の衛星に乗り換えなければなりません。
これを支えるのが、フェーズドアレイアンテナです。たくさんの小さなアンテナを平らに並べ、それぞれの電波のタイミングを少しずつずらすことで、電波の束(ビーム)の向きを、機械で首を振らずに、電子的に変えます。モーターで皿形のアンテナを回す方式より速く向きを変えられ、形も平たくできるので、飛行機の屋根の上に載せやすくなります。
海の上や遠い場所では、衛星どうしのレーザー通信が効きます。近くに地上局がなくても、衛星から衛星へ光でデータを渡し、地上局のある場所まで運びます。地中海の上や、大陸と島のあいだを飛ぶ便が多い航空会社には、この点が大切です。
これまでの流れ
- 2026年1月29日: ジャービスCEOが、スターリンクと話し合っているが、今は採算が合わない、と話したと報じられました。
- 2026年10月26日: イージージェットが、スターリンクの機内Wi-Fiの採用を発表。イージージェットとスターリンクの公式アカウントも、Xで知らせました。
- 2027年前半: 取り付けの開始予定。
- 2028年初め: 取り付けの完了の見込み。
知っておくと使える、ニュースを読むときのポイント
- 「速い機内Wi-Fi」は、まず「どの軌道の衛星か」を見る: 静止衛星(約3万6,000キロメートル)か、低軌道(数百キロメートル)かで、遅延がまったく違います。
- 「最大1Gbps」は1人分ではなく、1機分: 乗客全員で分け合う数字です。同時に使う人が多いほど、1人あたりは細くなります。
- 発表から全機完了までは時間がかかる: 機体を1機ずつ工事するので、イージージェットの場合も2027年前半から2028年初めまで、乗る便によって使えたり使えなかったりする期間があります。
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つづきの問い:スターリンクの衛星は、何千機も打ち上げられています。なぜ、数機の大きな静止衛星ではなく、たくさんの小さな衛星が必要なのでしょうか。
出典
- easyJet「easyJet to offer connectivity onboard for the first time with Starlink, the fastest Wi-Fi in the sky, with rapid roll out coming from 2027」(公式発表、2026年10月26日)→ https://www.easyjet.com/en/news/airline/story/easyjet-to-offer-connectivity-onboard-for-the-first-time-with-starlink-the-fastest-wi-fi-in-the-sky-with-rapid-roll-out-coming-from-2027
- easyJet(@easyJet)の投稿(2026年10月26日)→ https://x.com/easyJet/status/2114673396495884395
- Starlink(@Starlink)の投稿(2026年10月26日)→ https://x.com/Starlink/status/2114695236459094499
- Starlink「航空向けStarlink」(公式ページ、2026年10月27日に確認)→ https://www.starlink.com/business/aviation
- Reuters配信(2026年1月29日、採算についてのCEOの発言)→ https://whbl.com/2026/01/29/easyjet-exploring-starlink-wi-fi-deal-but-economics-not-right-yet/
確認状況
採用、対象の機体、時期、使い道、CEOとショットウェル氏の発言、会社の規模は、イージージェットの公式発表で確認しました。性能と実績の数字は、スターリンクの公式ページ(2026年10月27日時点)の値です。2026年1月の発言は、決算説明の電話会議でのものとして報じられた内容です。利用料金は、発表されていません。この記事は、科学技術の学習を目的としたもので、投資の助言ではありません。
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