FCCがスペースXに「スマホ→衛星」用の電波を追加で承認。なぜ“上り”の電波が大事なのか

確認日 2026年10月22日 / 読む時間 約7分

目次
  1. 3行まとめ
  2. 前提知識:電波の「周波数」と「幅」、そして「上り」と「下り」
  3. 何が起きたか
  4. なぜ重要か
  5. 技術・しくみ:FCCが課した「上りの速さ」の目標
  6. これまでの流れ
  7. 知っておくと使える、ニュースを読むときのポイント
  8. つづきの問い
  9. 次に読む
  10. 出典

FCCの無線通信局は2026年10月21日の命令(DA 26-1129)で、スペースXの子会社スターリンク・スペクトラム・ホールディングスが、トリスター社の子会社から、1695〜1710MHzの「AWS-3」免許3つを引き継ぐことを承認しました。対象は8つの州の62の郡、米国の人口の約4%の地域です。この電波は上り(スマホから基地局・衛星へ)専用で、スペースXのスマホ直接通信(D2D)に使われます。

AI生成のイメージ:地上のスマートフォンから、低い軌道を回る通信衛星へ、上り方向の電波が届く様子(概念図で、実際の衛星とは異なります)
図1:イメージ(AI生成)。

3行まとめ

  • 米国の連邦通信委員会(FCC)は2026年10月21日、スペースXの子会社が、トリスター社の子会社が持つ電波の免許3つ(1695〜1710MHz、幅15MHz)を引き継ぐことを承認しました(命令 DA 26-1129)。
  • この電波は「上り」専用です。スマホから衛星へ信号を送る側に使われ、スペースXの「スマホと衛星が直接つながる通信(D2D)」の一部になります。
  • 地上の基地局を建てる義務は免除され、その代わりに、衛星で「上りの速さ」を測る達成目標が、2年後・4年後・9年後の3段階で課されました。

前提知識:電波の「周波数」と「幅」、そして「上り」と「下り」

周波数は、電波が1秒間に何回振動するかを表す数です。単位はヘルツ(Hz)で、1MHz(メガヘルツ)は1秒間に100万回です。今回の電波は1695〜1710MHzなので、1秒間に約17億回振動する電波です。ラジオのつまみを回すと局が変わるように、周波数が違えば、同じ空間で別々の通信ができます。そのため、どの周波数を誰が使うかは、国が免許で決めています。米国で、その役割を持つのがFCCです。

帯域幅(幅)は、使える周波数の範囲の広さです。1695から1710までなので、幅は15MHzです。道路にたとえると、周波数は「道路の場所」、帯域幅は「車線の数」です。車線が多いほど、同じ時間にたくさんの車(データ)を通せます。ざっくり言うと、通信の速さは「幅 × 1MHzあたりに詰め込める量」で決まります。たとえば、1MHzあたり1秒に10万ビット(100kbps)送れる技術で、15MHzを全部使えれば、15 × 100kbps = 1,500kbps、つまり約1.5Mbpsです。

下りは、基地局や衛星からスマホへ届く向き(動画を見るとき)。上りは、スマホから基地局や衛星へ送る向き(写真を送る、通話で自分の声を届けるとき)です。

衛星とスマホの通信で、とくに難しいのが上りです。理由は、送る側の力の差にあります。衛星は、大きなアンテナと太陽電池の電力を使って、強い電波を地上に向けて出せます。一方、スマホが出せる電波は、電池で動く小さな機械なので、ずっと弱いです。しかも、今回の衛星は、FCCの10月6日の承認文書によると、高さ約326〜335kmを回ります。これは、東京から名古屋くらいの距離を、真上に向けて、手のひらの機械の弱い電波で届けるようなものです。上り専用の電波を増やすことは、この「いちばん細い道」を広げることにあたります。

何が起きたか

FCCの無線通信局(Wireless Telecommunications Bureau)は、2026年10月21日に、命令(Memorandum Opinion and Order、DA 26-1129、WT Docket No. 26-187)を出しました。内容は次のとおりです。

項目内容(FCCの命令より)
売り手Tristar License Group の子会社 TLG Unpaired Holdings(ミシシッピ州)
買い手Starlink Spectrum Holdings(スペースXの完全子会社)
電波「AWS-3」の上り専用の部分、1695〜1710MHz
免許の数3つ(3つの経済圏)
地域8つの州の62の郡、米国の人口の約4%
申請2026年6月11日に申請、7月に修正
反対意見却下を求める申し立ては0件
効力命令の採択と同時に発効

FCCは、これらの免許を、スペースXの次世代のスマホ直接通信(D2D)のネットワークで使うと説明しています。

なぜ重要か

1つ目は、上りの電波が増えることです。前提知識で説明したように、衛星とスマホの通信では、上りがいちばん細い道です。FCCは10月6日に、スペースXの次世代D2D衛星(最大1万5,000機)を条件つきで承認しており、そこにはAWS-3の上り専用の電波も含まれていました。今回の免許は、その同じ電波の、まだ持っていなかった地域の分にあたります。FCCは、これで「連続したAWS-3の地域」を組み立てやすくなる、という申請者の説明を記しています。

2つ目は、ルールの読み替えです。もともとこの免許には、地上に基地局を建てて、一定の地域をカバーする義務がありました。FCCは、衛星と地上の基地局は「同じ場所で、同じ時間に、同じ電波を使えない」という申請者の説明を受けて、地上の建設義務を免除しました。その代わりに、衛星で達成する目標を新しく課しました。地上の電話会社向けに作られた免許が、衛星の通信に合わせて使い方を変えた、という例です。

技術・しくみ:FCCが課した「上りの速さ」の目標

目標は、2027年11月30日を起点に、2年後・4年後・9年後の3段階です。数字は、「1MHzあたり、何kbps送れるか」という形で決められています。

時期(起点から)上りの速さ(下から5%の利用者でも)時間のうち使える割合1本の電波の束(ビーム)あたりの効率
2年後1MHzあたり100kbps以上70%1MHzあたり100kbps
4年後1MHzあたり200kbps以上80%(定めなし)
9年後1MHzあたり300kbps以上90%1MHzあたり200kbps

速さの条件は、免許の地域の90%の広さで満たす必要があります。

「下から5%の利用者でも」(5パーセンタイル)という決め方が、大事なところです。平均の速さだと、条件のよい人が数字を引き上げてしまいます。下から5%で決めると、空が開けていない場所や、混んでいる時間の人でも、ある程度の速さが出ることを求めることになります。

目標を外したときの罰も決まっています。2年後の目標を外すと、最後の期限が9年から8年に早まります。4年後の目標も外すと、さらに2年早まります(両方を外すと6年)。最後の目標を外すと、その地域の免許は自動的に失われ、スペースXは同じ免許を取り戻せません。

ぼくの計算だけど、9年後の300kbpsを、今回の15MHzの幅にあてはめると、300 × 15 = 4,500kbps、約4.5Mbpsになります(1人の利用者が幅を全部使えた場合の目安です)。メッセージや音声通話には十分で、写真の送信も現実的になる水準です。

これまでの流れ

  • 2026年6月11日: スペースXの子会社とトリスターが、免許の引き継ぎをFCCに申請しました。
  • 2026年7月5日: 免許の期限でしたが、期限前に更新が申請されていたため、免許は有効なまま残りました。
  • 2026年7月17日: FCCが、申請を受け付けたと公表しました(DA 26-747)。却下を求める申し立ての締め切りは8月17日でした。
  • 2026年10月6日: FCCが、スペースXの次世代D2D衛星(最大1万5,000機)を、一部承認・一部保留で認めました(DA 26-1078)。
  • 2026年10月21日: FCCが、今回の免許の引き継ぎを承認しました(DA 26-1129)。

知っておくと使える、ニュースを読むときのポイント

  • 「MHz」が出てきたら、周波数(場所)か、幅(車線の数)かを分けて読む: 「1695〜1710MHz」は場所、「15MHz」は幅です。速さに効くのは幅です。
  • 上りと下りは、別の問題: 衛星通信では、スマホの電波が弱いので、上りのほうが難しくなりがちです。「上り専用」の電波は、その弱点を補うためのものです。
  • 承認は「使ってよい」の許可で、サービス開始の日付ではない: 今回の命令は、免許を引き継いでよいという許可です。速さの目標は2027年11月30日を起点に数えます。

つづきの問い

スマホの小さなアンテナから出た弱い電波を、330km上空の衛星は、どうやって聞き取っているのでしょうか。その答えは、衛星側の大きなアンテナと、電波を一点に絞る「ビーム」の技術にあります。

次に読む

出典

※承認の内容、条件、日付は、FCCの公式文書で確認しました(2026-10-22時点)。

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