マスク氏は2026年10月26日(UTC)のXの投稿で、「ラプター4は海面で300トンの推力になり、質量はほぼ同じになることを望んでいる」と書きました。SpaceXが2024年8月3日に公表したラプター3(海面用)は、推力280tf、比推力350秒、エンジンの質量1525kgです。300トンはラプター3より約7%多く、同じ質量なら、推力重量比は約184から約197に上がる計算です。これは開発の目標で、正式な仕様の発表ではありません。

3行まとめ
- イーロン・マスク氏は2026年10月26日(UTC)、Xで、スペースXの次のエンジンラプター4は「海面で300トンの推力」になり、質量は「ほぼ同じ」にしたいと書きました。
- SpaceXの公表では、いまのラプター3(海面用)は推力280tf、質量1525kgです。300トンは約7%の増加で、重さが同じなら、エンジン1kgあたりで出せる力が、そのまま増えます。
- スーパーヘビーの33基に当てはめると、計算上、合計の推力は約9,240トンから約9,900トンへ増えます。これは目標の数字で、正式な仕様や完成時期は発表されていません。
前提知識:推力、「トン」の推力、推力重量比、比推力
推力は、エンジンが機体を押す力です。 ロケットは、燃料を燃やしてできた高温のガスを、ノズルから猛烈な速さで後ろへ吹き出します。ガスを後ろへ押し出すと、その反動で、エンジンは前へ押し返されます。風船の口を離すと、空気が出る向きと反対へ飛んでいくのと、同じしくみです。この「押し返す力」が推力で、単位はふつうニュートン(N)やキロニュートン(kN)です。ロケットが地面を離れるには、推力が、ロケット全体の重さ(重力に引かれる力)より大きくなければなりません。
「300トンの推力」は、「300トンの物を持ち上げられる力」という意味です。 SpaceXは、推力を「tf(トン重)」という単位で書くことがあります。1tfは、地球上で1トンの物にかかる重力と同じ大きさの力で、約9.8kNです。つまり300tfは、約2,940kNです。ややこしいのは、「300トン」という言葉が、エンジンの重さではなく、エンジンが出す力を表していることです。たとえるなら、体重60kgの人が、300kgのバーベルを持ち上げられる、というときの「300kg」にあたります。ちなみに、ファルコン9のマーリンの推力は845kN(SpaceX公式)で、tfに直すと約86tfです。ラプター3は、その3倍以上です。
推力重量比は、「自分の重さの何倍の力を出せるか」です。 推力をエンジンの重さで割った数字で、大きいほど、軽くて力持ちのエンジンです。ラプター3なら、280トン重の力 ÷ 1.525トン ≒ 184。エンジンは、自分の重さの約184倍の力で押せる、という意味です。ロケットでは、エンジンが重いと、その分だけ運べる荷物が減ります。スーパーヘビーのようにエンジンを33基も積む機体では、1基あたり100kgの違いでも、33基で3.3トンの違いになります。だから、「推力を上げて、重さは同じ」は、ロケットにとって、とても大きな意味を持ちます。
比推力は、「燃費」にあたる数字です。 単位は秒で、同じ量の推進剤(燃料と酸化剤)で、どれだけ長く、同じ力で押し続けられるかを表します。数字が大きいほど、燃費のよいエンジンです。SpaceXの公表では、ラプター3(海面用)の比推力は350秒です。推力が「力の強さ」、比推力が「燃費のよさ」で、この2つは別の物差しです。くわしくは、推力と比推力の記事で、計算つきで解説しています。
何が起きたか
マスク氏は、2026年10月26日13時58分(UTC、日本時間の22時58分)、ラプター3の性能を紹介するほかの利用者の投稿に、次のように返信しました。
Raptor 4 will be 300 tons of thrust at sea level and hopefully about the same mass(マスク氏、2026年10月26日)
日本語にすると、「ラプター4は、海面で300トンの推力になり、質量はほぼ同じになるといい」という意味です。ラプター3の話題への返信なので、「同じ」は、ラプター3と比べた話と読めます。
比べる相手の、ラプター3の公式の数字は、SpaceXが2024年8月3日に、Xで公表しています。
| 項目 | ラプター3(海面用、SpaceX 2024年8月3日) | ラプター4(マスク氏の目標、2026年10月26日) |
|---|---|---|
| 推力(海面) | 280tf(約2,750kN) | 300トン(約2,940kN) |
| エンジンの質量 | 1525kg | 「ほぼ同じ」にしたい |
| エンジン+機体側の配管・部品の質量 | 1720kg | 言及なし |
| 比推力(海面) | 350秒 | 言及なし |
数字で見ると、何が変わるか(計算)
公表された数字から、ぼくが計算した値です。ラプター4の質量を、ラプター3と同じ1525kgと仮定しています。
| 計算 | ラプター3 | ラプター4(目標) | 変化 |
|---|---|---|---|
| 1基の推力 | 280tf | 300tf | +20tf(約+7%) |
| 推力重量比(推力÷エンジンの質量) | 約184 | 約197 | 約+7% |
| スーパーヘビー33基の合計推力 | 約9,240tf | 約9,900tf | +約660tf |
7%は、小さく見えて大きい数字です。 33基の合計で増える約660トン重は、ラプター3を2基余分に付けたよりも多い力です。しかも、重さは増やさない、という目標です。エンジンを増やせば、配管も、制御も、壊れる可能性のある部品も増えますが、1基を強くすれば、そうした「増える手間」は増えません。
よくある誤解:「30%アップ」という見出し。 一部の報道は、「推力30%増」と伝えています。しかし、ラプター3の公式の280tfと比べると、300トンは約7%増です。数字は、何と比べたかで、大きく変わります。たとえば、SpaceXのスターシップの公式ページは、ラプターの推力を250tfと書いています(2026年10月16日に確認)。これと比べれば、300トンは20%増になります。ニュースで「◯%アップ」を見たら、まず「何と比べて?」を確かめるのが、数字を読むときのいちばん大事な習慣です。
なぜ重要か
ロケットは、「重さとの戦い」だからです。 地球から宇宙へ物を運ぶとき、ロケットの重さの大部分は推進剤で、荷物はごく一部です。エンジンが軽いほど、同じ推力で、より多くの荷物を運べます。逆に、同じ重さのまま推力が増えれば、もっと重い機体を持ち上げられるので、推進剤を増やしたり、荷物を増やしたりできます。
スターシップは、エンジンの数がとても多い機体です。 1段目のスーパーヘビーにはラプターが33基、2段目のスターシップには6基(ラプター3基、真空用のラプター・バキューム3基)が付いています(SpaceX公式)。1基の改善が、33倍や6倍になって、機体全体に効いてきます。
コストの目標とも、つながっています。 マスク氏は2025年11月3日のXの投稿で、ラプター4は「推力1トンあたりの費用で、マーリンの10倍以上よくなる」はずで、推力重量比と比推力も、さらに上がる、と書いていました。今回の「300トン、同じ重さ」は、その推力重量比の目標を、具体的な数字にしたものだと言えます。
背景と、しくみ:なぜ同じ重さで力を増やせるのか
エンジンの力は、「燃やす量」と「吹き出す速さ」で決まります。 推力は、1秒間に吹き出すガスの量と、その速さのかけ算で、大まかに決まります。燃焼室の圧力を上げると、同じ大きさのエンジンで、より多くの推進剤を燃やし、より強くガスを押し出せます。つまり、エンジンを大きく(重く)しなくても、圧力を上げれば、推力は上がります。
ラプターは、高い圧力を出しやすい設計です。 ラプターは、メタンと液体酸素を使う「全流量二段燃焼サイクル」のエンジンです。燃料と酸素を、それぞれ一部燃やしたガスで、ポンプ(ターボポンプ)を回し、そのガスを捨てずに、すべて燃焼室へ送ります。マーリンのような「ガス発生器サイクル」では、ポンプを回したガスの一部を捨てます。捨てないので、むだが少なく、燃焼室の圧力を高くできます。違いは、マーリンとラプターの比較の記事にまとめています。
ぼくの考えだけど、難しいのは、熱と圧力に耐える材料と冷却です。 圧力を上げると、燃焼室の壁やポンプにかかる力と熱も、増えます。それに耐えるために部品を厚くすると、エンジンは重くなります。「推力を上げて、重さは同じ」という目標が難しいのは、この「強くすれば重くなる」というつり合いを、設計で破らなければならないからです。
これまでの流れ
| 日付 | できごと | 出典 |
|---|---|---|
| 2024年8月3日 | SpaceXが、ラプター3(海面用)の数字を公表(推力280tf、比推力350秒、質量1525kg、機体側の部品を含めて1720kg) | SpaceXのX |
| 2025年11月3日 | マスク氏が、ラプター3は推力1トンあたりの費用でマーリンの2〜4倍よく、ラプター4は10倍以上よくなるはず、と投稿 | マスク氏のX |
| 2026年10月16日 | スターシップの公式ページの、ラプターの推力は250tf(本サイトの確認) | SpaceX公式ページ |
| 2026年10月26日 | マスク氏が、ラプター4は海面で300トンの推力、質量はほぼ同じを目指す、と投稿 | マスク氏のX |
スーパーヘビーの33基のエンジンを、まとめて燃やす試験の話は、スターシップ15回目の飛行に向けた静的燃焼の記事で解説しています。
友だちに説明するなら
- 「300トンの推力」は、エンジンの重さではなく、300トンの物を持ち上げられる力のこと。
- ラプター3(280tf)と比べて、約7%アップ。「30%アップ」は、比べる相手が違う。
- 大事なのは「同じ重さで」という部分。重さ1.5トンのエンジンが、自分の約200倍の力で押すことになる。
- 正式な仕様ではなく、マスク氏が示した開発の目標。
つづきの問い
エンジンの推力を上げると、ロケットは、どれだけ多くの荷物を、宇宙へ運べるようになるのでしょうか。その答えを出すには、「ロケット方程式」という、ロケット工学のいちばん大事な式が必要です。
次に読む
出典
- イーロン・マスク氏のXの投稿(2026年10月26日): https://x.com/elonmusk/status/2114718275238277610
- SpaceXのXの投稿(ラプター3の数字、2024年8月3日): https://x.com/SpaceX/status/1819772716339339664
- イーロン・マスク氏のXの投稿(2025年11月3日): https://x.com/elonmusk/status/1985187793556111427
- SpaceX「Starship」: https://www.spacex.com/vehicles/starship
- SpaceX「Falcon 9」: https://www.spacex.com/vehicles/falcon-9
確認状況
- ラプター4の「300トン」「ほぼ同じ質量」は、マスク氏のXの投稿で確認した開発の目標です。SpaceXの正式な仕様の発表ではありません。
- 推力重量比、33基の合計推力、増加率は、公表された数字から本サイトが計算した値です。
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