推力と比推力とは?ロケットの「力」と「燃費」の違いを、NASAの資料とRS-25・ファルコン9の数字で計算する

確認日 2026年10月27日 / 読む時間 約12分

目次
  1. 結論:推力は「力の強さ」、比推力は「燃費」
  2. 前提知識:力・重さ・反動・速さ
  3. 推力とは:1秒に噴き出す量 × 噴き出す速さ
  4. 比推力とは:推進剤の「燃費」
  5. 実在のエンジンで計算する:RS-25
  6. なぜ、海面と真空で値が変わるのか
  7. なぜ、推力と比推力の両方が必要なのか
  8. よくある誤解
  9. よくある質問
  10. まとめ
  11. 出典(確認日 2026-10-27)

推力とは、エンジンがロケットを押す力で、単位はニュートン(N)です。比推力とは、推力を「1秒あたりに使う推進剤の重さ」で割った値で、単位は秒です。NASAの資料は、比推力を「平均の推力を、重力加速度と平均の質量流量の積で割ったもの」と定義しています。推力が「どれだけ強く押せるか」、比推力が「推進剤をどれだけ効率よく使えるか(燃費)」を表します。たとえば、スペースシャトルと月ロケットSLSのエンジンRS-25は、真空で推力512,300ポンド(約2,280 kN)、比推力452.3秒です。

燃焼ガスを下へ噴き出して上昇するロケットと、推進剤タンクのイメージ(AI生成のイメージ。概念図)
図1:ロケットは、ガスを後ろへ噴き出して、その反動で進む(AI生成のイメージ。概念図)。

ロケットのエンジンを比べるとき、必ず出てくる数字が2つあります。推力と比推力です。マーリンとラプターの違いでは推力を比べましたが、推力だけでは、エンジンの良し悪しは決まりません。この記事では、NASAの資料の定義と、実在のエンジンの数字を使って、2つの違いを、計算しながら確かめます。

結論:推力は「力の強さ」、比推力は「燃費」

  • 推力は、エンジンがロケットを押す力です。単位はニュートン(N)。大きいほど、重いロケットを持ち上げられます。
  • 比推力は、推進剤(燃料と酸化剤)を、どれだけ効率よく使えるかを表す数字です。単位は秒。大きいほど、同じ量の推進剤で、ロケットを速くできます。車でいえば「燃費」にあたります。
  • NASAの資料は、比推力を「平均の推力 ÷(重力加速度 × 平均の質量流量)」と定義しています。質量流量とは、1秒あたりに噴き出す推進剤の質量です。
  • 推力は「速く走り出せるか」、比推力は「どこまで遠くへ行けるか」に効きます。ロケットには、両方が必要です。

前提知識:力・重さ・反動・速さ

力の単位「ニュートン」と、重さ

力とは、物を押したり引いたりして、動きを変えるものです。単位はニュートン(N)です。1ニュートンは、1kgの物を、1秒ごとに秒速1mずつ速くする力です。

身近な目安をつくってみます。地球の上では、物は下へ引っぱられています(重力)。重力が物を速くする割合(重力加速度)は、標準の値で9.80665 m/s²、約9.8です。ですので、1kgの物にかかる重さは、約9.8ニュートンです。逆に言うと、1ニュートンは、約102gの物の重さ、つまり、小さいリンゴ1個を手のひらに載せたときの感じです。

ここで大事なのは、質量と重さは別物だということです。質量(kg)は「物の量」で、宇宙でも変わりません。重さ(N)は「重力に引かれる力」で、月では約6分の1になります。ロケットの話では、この2つを区別すると、話がすっきりします。

アメリカの資料では、力をポンド(lbf、重量ポンド)で書くことが多いです。1 lbf は約4.448 Nです。また、「トン重(tf)」という単位もあり、1 tf は約9.8 kN(1トンの物の重さ)です。単位がばらばらでも、Nにそろえれば比べられます。

反動で進む:ボートからボールを投げる

ロケットは、何かを「押して」進むわけではありません。真空の宇宙には、押す相手の空気もありません。では、どうやって進むのでしょうか。

氷の上で、ボールをたくさん抱えて立っているところを想像してください。ボールを前へ思い切り投げると、体は後ろへ滑り出します。投げたボールが前へ動いた分だけ、体は後ろへ動きます。これを物理では運動量の保存といいます。運動量とは、「質量 × 速さ」で表す、動きの勢いです。投げる前の勢いは合計ゼロなので、投げたあとも、ボールの勢いと体の勢いを足すとゼロになります。

ロケットは、これを、ものすごい量と速さで続けています。投げるボールが、燃やしてできた高温のガスです。NASA/MSFCの資料(Gregory、2004年)も、ロケットの推力を、この運動量の保存から導いています。

速さと「速くなる割合」

速さは、1秒あたりに進む距離(m/s)です。加速度は、1秒あたりに速さがどれだけ増えるか(m/s²)です。力と加速度の関係は「力 = 質量 × 加速度」です。同じ力なら、軽い物ほど速く加速します。ロケットは、推進剤を燃やして軽くなっていくので、同じ推力でも、後になるほど加速が強くなります。

推力とは:1秒に噴き出す量 × 噴き出す速さ

NASA/MSFCの資料は、運動量の保存から、推力を次のように導いています。

推力 = 噴き出すガスの速さ × 1秒あたりに噴き出す質量(質量流量)

ボートの例でいえば、「1秒に何kgのボールを、どれだけ速く投げるか」です。たくさん投げても、速く投げても、反動は大きくなります。

数字で試します。1秒に500kgのガスを、秒速4,000mで噴き出すと、推力は 4,000 × 500 = 2,000,000 N(2,000 kN、2メガニュートン)です。約204トンの物の重さと同じ力です。

推力のしくみ。燃焼室で推進剤を燃やし、ノズルでガスを速く噴き出す。噴き出す量と速さの積が推力になる(AI生成のイメージ。概念図)
図2:推力は「噴き出す量 × 噴き出す速さ」で決まる(AI生成のイメージ。概念図)。

比推力とは:推進剤の「燃費」

推力は、たくさん噴き出せば、いくらでも大きくできます。でも、それでは推進剤がすぐなくなります。そこで、「同じ推進剤で、どれだけ押せるか」を表すのが比推力です。

NASA/MSFCの資料の定義を、言葉にするとこうなります。

比推力 = 推力 ÷(重力加速度 × 質量流量)

分母の「重力加速度 × 質量流量」は、1秒あたりに使う推進剤の重さです。つまり比推力は、「推進剤の重さ1ニュートン分あたり、何ニュートンの推力が出るか」を、時間の形で表したものです。

さらに、推力 = 噴き出す速さ × 質量流量 だったので、代入すると、

比推力 = 噴き出す速さ ÷ 重力加速度

になります(資料の式13。ガスの速さと流量が一定のとき)。比推力は、ガスを噴き出す速さを、9.8で割っただけの数字なのです。比推力が高いエンジンとは、ガスを速く噴き出せるエンジンのことです。

なぜ単位が「秒」なのか

速さ(m/s)を加速度(m/s²)で割ると、単位は「秒」になります。意味で言うと、こうです。

「推進剤1kgで、1kgの重さ(9.8 N)と同じ力を、何秒間出し続けられるか」

比推力450秒のエンジンなら、推進剤1kgで、9.8 Nの力を450秒間出せます。比推力300秒なら300秒間です。車の燃費(km/L)と同じで、「同じ量で、どれだけ長く働けるか」の数字です。重さをもとにしているので、メートル法でもポンド法でも、同じ数字(秒)になるのが便利な点です。

実在のエンジンで計算する:RS-25

RS-25は、スペースシャトルの主エンジンを元にした、NASAの月ロケットSLSのエンジンです。製造会社L3Harrisの仕様書(2024年7月)によると、液体水素と液体酸素を使い、スペースシャトルの135回の飛行すべてで使われました。数字は、出力109%のときの値です。

項目値(L3Harris仕様書、2024年)
推力(海面)418,000ポンド(約1,859 kN)
推力(真空)512,300ポンド(約2,279 kN)
比推力(真空)452.3秒
燃料/酸化剤液体水素/液体酸素(混合比 6.03:1)
燃焼室の圧力2,994 psia(約204気圧)

Aerojet Rocketdyneの情報を載せたMilitary Aerospaceの記事(2015年1月15日)も、同じ推力と、比推力 真空452秒・海面366秒 を載せています。

この数字から、ガスの速さと、1秒に使う推進剤の量を計算できます(筆者の計算)。

  1. 噴き出す速さ(真空)= 452.3 × 9.80665 ≈ 秒速4,436 m。音の速さ(秒速約340m)の約13倍です。
  2. 質量流量 = 推力 ÷ 速さ = 2,279,000 ÷ 4,436 ≈ 毎秒約514 kg。1基のエンジンが、1秒に、軽自動車の半分ほどの推進剤を噴き出している計算です。

なぜ、海面と真空で値が変わるのか

上の表で、同じRS-25なのに、推力は海面418,000ポンド、真空512,300ポンドと、値が違います。理由は、外の空気の圧力です。

ノズルの出口では、ガスが外へ広がろうとしています。海面では、外の空気(約1気圧)が、出口を押し返します。真空では、押し返すものがありません。NASA Glennの教材の推力の式は、この「出口の圧力と外の圧力の差 × 出口の面積」を、推力に足し引きする形になっています。

計算で確かめます(筆者の計算)。

  • 推力の比:418,000 ÷ 512,300 ≈ 0.816
  • 比推力の比:366 ÷ 452 ≈ 0.810

ほぼ同じ割合で下がっています。エンジンが1秒に使う推進剤の量は、海面でも真空でも、ほぼ同じです。同じ量を燃やしても、海面では空気に押し返される分、推力も比推力も約2割下がる、ということです。

SpaceXの数字にも、同じ考え方が表れています。ファルコン9の第1段のマーリンは845 kN、第2段で真空で使う真空用マーリンは981 kNです(SpaceX公式ページ)。真空用は、別に作り分けたエンジンなので、単純な比較はできませんが、宇宙で使うエンジンは、真空に合わせて設計する、という点は共通です。詳しくはファルコン9とはで紹介しています。

海面と真空の違い。海面では外の空気がノズルの出口を押し返し、真空では押し返すものがない(AI生成のイメージ。概念図)
図3:海面では、外の空気がガスの出口を押し返す(AI生成のイメージ。概念図)。

なぜ、推力と比推力の両方が必要なのか

推力:重さに勝てないと、浮かない

ロケットが地面から離れるには、推力が、ロケットの重さより大きい必要があります。この比を推力重量比といいます。

ファルコン9で計算します(SpaceX公式ページの数字、筆者の計算)。

  • 推力:マーリン845 kN × 9基 = 約7,605 kN
  • 重さ:質量549,054 kg × 9.80665 ≈ 約5,384 kN
  • 推力重量比:7,605 ÷ 5,384 ≈ 1.41

推力が重さを上回る分(約2,221 kN)が、ロケットを上へ加速させます。最初の加速度は、2,221,000 ÷ 549,054 ≈ 約4.0 m/s²。止まっている車が、1秒ごとに時速約14kmずつ速くなるくらいの加速です。推進剤を使って軽くなるにつれて、加速は強くなります。

比推力がどれだけ高くても、推力重量比が1より小さいと、ロケットは発射台から浮きません。第1段に「力持ち」が求められる理由です。

比推力:最後にどれだけ速くなれるか

ロケットが最終的にどれだけ速さを増やせるかは、ロケットの方程式(ツィオルコフスキーの式)で決まります。言葉にすると、

増やせる速さ = 噴き出す速さ × log(出発時の質量 ÷ 燃え尽きたときの質量)

です(logは自然対数。一般的な式)。「噴き出す速さ」は、比推力 × 9.8 でした。つまり、増やせる速さは、比推力に比例します。

例で比べます(筆者の計算。質量の比を10とする。log 10 ≈ 2.30)。

比推力噴き出す速さ増やせる速さ
300秒約2,942 m/s約6,770 m/s
450秒約4,413 m/s約10,160 m/s

比推力が1.5倍なら、増やせる速さも1.5倍です。地球を回る低い軌道に乗るには、秒速約7.8kmが必要です(一般的な値)。比推力の差が、そのまま「軌道に届くか届かないか」の差になります。ロケットを何段にも分ける理由も、この式から来ています。燃え尽きた重いタンクを捨てれば、「燃え尽きたときの質量」が小さくなり、増やせる速さが増えるからです。

両立が難しい理由

ぼくの考えだけど、ロケットの設計は、この2つのつな引きです。たとえば液体水素は、RS-25のように高い比推力を出せますが、とても軽い(密度が小さい)液体なので、同じ重さを積むのに大きなタンクが必要です。ファルコン9が灯油(RP-1)、スターシップがメタンを選んでいるのは、比推力だけでなく、タンクの大きさや扱いやすさ、再使用まで含めた判断です。燃料の違いはファルコン9とスターシップの違いやスターシップとはで扱っています。

よくある誤解

  • 「推力が大きいエンジンほど、良いエンジン」:推力は、エンジンを大きくするか、数を増やせば増やせます。推進剤の使い方の上手さは、比推力で見ます。
  • 「比推力の単位の秒は、燃える時間」:違います。燃焼時間とは関係なく、「推進剤1kgで、その重さと同じ力を何秒出せるか」という、効率の数字です。
  • 「ロケットは、地面や空気を押して進む」:違います。ガスを後ろへ噴き出す反動で進みます。だから真空でも進め、むしろ真空のほうが推力が大きくなります。
  • 「カタログの推力は、いつも同じ」:海面と真空で違います。数字を見たら、どちらの条件かを必ず確かめます。

よくある質問

推力と比推力の違いは、何ですか?

推力は、エンジンが押す力(N)です。比推力は、推進剤をどれだけ効率よく使えるか(秒)です。推力は「力の強さ」、比推力は「燃費」と考えると、わかりやすいです。

比推力の単位は、なぜ秒なのですか?

比推力は、ガスを噴き出す速さ(m/s)を、重力加速度(m/s²)で割った値なので、単位が秒になります。意味は「推進剤1kgで、1kgの重さと同じ力を、何秒出し続けられるか」です。

比推力が高いと、何がうれしいのですか?

同じ量の推進剤で、ロケットをより速くできます。ロケットの方程式では、増やせる速さが、比推力に比例します。

なぜ海面より、真空のほうが推力が大きいのですか?

海面では、外の空気が、ノズルの出口を押し返すからです。RS-25では、推力が海面418,000ポンド、真空512,300ポンドで、約2割違います。

推力重量比とは、何ですか?

推力を、ロケットの重さで割った値です。1より大きくないと、ロケットは浮きません。ファルコン9は、公式の数字から計算すると、約1.4です。

まとめ

  • 推力 = 噴き出す速さ × 1秒に噴き出す質量。単位はN。ロケットを押す「力」。
  • 比推力 = 推力 ÷(9.8 × 質量流量)= 噴き出す速さ ÷ 9.8。単位は秒。推進剤の「燃費」。
  • RS-25は、真空で推力約2,279 kN、比推力452.3秒。ガスは秒速約4,400mで、毎秒約514kgを噴き出す計算。
  • 海面では外の空気に押し返され、推力も比推力も約2割下がる。数字は条件(海面/真空)を確かめて読む。
  • 浮くには推力(推力重量比が1超)、遠くへ行くには比推力。ファルコン9の離昇時の推力重量比は約1.4。

友人に説明するなら:「推力は馬力、比推力は燃費。ロケットは、ガスを投げる反動で進むから、速く投げられるエンジンほど燃費がいい」。

つづきの問い:ガスを速く噴き出すには、燃焼室の圧力を高くし、ノズルで上手に広げる必要があります。では、ノズルはなぜ、いったん細くなってから広がる「砂時計」の形をしているのでしょうか。ロケットの値段との関係はロケットの値段でも扱っています。

次に読む:マーリンとラプターの違い で、スペースXのエンジンの推力を、公式の数字で比べています。

出典(確認日 2026-10-27)

この記事は、科学技術の学習を目的としたもので、投資の助言ではありません。計算は、出典の数字をもとに筆者が行いました。図はAIで生成したイメージです。

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