FCCが「衛星から普通のスマホへ」の電波を5帯から13帯へ広げる案を採決。482MHzは何がすごいのか

確認日 2026年10月30日 / 読む時間 約8分

目次
  1. 3行まとめ
  2. 前提知識:電波の「場所」と「幅」、低い電波と高い電波、FDDとTDD
  3. 何が起きたか
  4. 新しく加わる8つの帯域と、482MHzの内訳
  5. なぜ重要か
  6. これまでの流れ
  7. 技術・しくみ:なぜ「帯域ごと」に審査するのか
  8. 友人に説明するときのポイント
  9. つづきの問い
  10. 次に読む
  11. 出典

FCCは2026年10月8日に公表した規則案(GN Docket No. 26-281、23-65)で、衛星が携帯電話会社の電波を使って普通のスマホに直接つなぐ「SCS(宇宙からの補完カバレッジ)」の対象を、今の5帯域(合計344MHz)から13帯域へ広げ、482MHzを追加することを提案しました。10月29日の公開会合で、この案を全会一致で採決し、意見募集を始めたと報じられています。最終的な規則ではなく、意見を集めたあとに決まります。

AI生成のイメージ:地上の何本もの電波の帯(色の違う帯)が、上空の通信衛星から、普通のスマートフォンへ届く様子(概念図で、実際の衛星や周波数の配置とは異なります)
図1:イメージ(AI生成)。

3行まとめ

  • 米国の連邦通信委員会(FCC)は、衛星から普通のスマホへ直接つなぐ「SCS」に使える電波を、5帯域から13帯域へ、482MHz増やす規則案を出しました(案の公表は2026年10月8日)。
  • 10月29日の公開会合で、この案を全会一致で採決し、意見募集を始めたと報じられています。これは「最終決定」ではなく、「この方向で意見を集める」という段階です。
  • もう1つの柱は、衛星会社が全米の同じ電波を持つ携帯会社すべてと契約しなければならないという、今のきびしい条件をやめ、使う地域だけの免許にする提案です。

前提知識:電波の「場所」と「幅」、低い電波と高い電波、FDDとTDD

周波数(電波の場所)は、電波が1秒間に何回振動するかです。単位はヘルツ(Hz)で、1MHz(メガヘルツ)は1秒に100万回、1GHz(ギガヘルツ)は1秒に10億回です。ラジオのつまみを回すと局が変わるように、周波数が違えば、同じ空間でも別々の通信ができます。混線を防ぐため、どの周波数を誰が使うかは国が免許で決めていて、米国ではFCCがその役割です。

帯域幅(電波の幅)は、使える周波数の範囲の広さです。たとえば「1850〜1920MHz」なら、幅は1920 − 1850 = 70MHzです。道路にたとえると、周波数は「道路の場所」、帯域幅は「車線の数」です。車線が多いほど、同じ時間にたくさんの車(データ)を通せます。今回の「482MHz」は、この幅の合計です。「482MHzの電波」という意味ではないので、注意してください。

低い電波と高い電波には、得意・不得意があります。600〜900MHzくらいの低い電波は、波が長く、遠くまで届き、建物や木の葉でも弱まりにくい性質があります。そのかわり、もともと使える幅が狭く、たくさんのデータは運びにくいです。2.5GHzや3.5GHzのような高い電波は、幅を広く取れるので速さが出ますが、距離や障害物で弱まりやすいです。衛星は数百km上にいるので、昔は低い電波が向いていると考えられてきました。今回の案は、高い電波まで対象に広げる点が大きな特徴です。

FDDとTDDは、上り(スマホ→基地局・衛星)と下り(基地局・衛星→スマホ)を分ける2つの方法です。FDDは、上り用と下り用に別の周波数を用意します(道路の上り車線と下り車線)。TDDは、同じ周波数を、時間で交代して使います(1車線を信号で交互に通す)。TDDは、上りと下りが同じ電波を使うので、衛星が混ざると、地上の基地局とスマホの両方に気を配る必要があり、混線の扱いが難しくなります。FCCの案も、TDDの帯域では、帯域全体で地上の基地局と受信機の両方を守る必要がある、と書いています。

混線の目安「電力束密度」は、地上の1平方メートルに、1MHzあたり、どれだけの電波の強さが届くかを表す数字です。今のSCSの規則では、決められた周波数の外にもれる電波の合計を「−120 dBW/m²/MHz」までにする、と決めています。dBW(デシベルワット)は、10倍ごとに10ずつ変わる目盛りで、−120 dBWは、1ワットの1兆分の1(10のマイナス12乗ワット)です。それくらい小さく抑えないと、となりの電波を使う地上の通信のじゃまになる、という考え方です。

何が起きたか

FCCは2026年10月8日に、規則案(Notice of Proposed Rulemaking)の下書きと、その要点をまとめた「ファクトシート」を公表しました。題名は「Unleashing Licensed Spectrum for Direct-to-Device(免許のある電波を、スマホ直接通信のために解き放つ)」です。10月29日の公開会合で審議する予定とされていました。

報道(Broadband Breakfast、2026年10月29日)によると、FCCはこの会合で、案を全会一致で採決し、意見募集を始めました。意見の提出は、官報に載ってから60日以内、それへの反論は90日以内とされています(下書きの記載)。

FCCの案の主な内容は、次のとおりです(10月8日のファクトシートと下書きより)。

項目今の規則(2024年3月に決定)今回の案
SCSに使える帯域5帯域(合計344MHz)13帯域(482MHzを追加)
免許の地域全米本土などの大きな地域(GIA)ごと実際にサービスする地域だけの、自由な大きさ
携帯会社との関係その地域で同じ電波を持つすべての会社とのリース(賃貸)契約が必要共存の合意か、衛星会社が自分で地上の免許を持つことの証明でよい
混線の基準免許の境界での電波の強さの上限など境界での上限を見直し、当事者どうしの合意で別の基準も選べる
スマホ側の扱いSCS用の端末は個別の免許がいらない新しい帯域の端末にも広げる
サービスの質とくに基準なしスマホ直接通信の性能の基準を設ける方向で意見を聞く

新しく加わる8つの帯域と、482MHzの内訳

下書きは、SCSを認める周波数の一覧(米国の周波数割当表の脚注「NG33A」)を、次のように書き換えると提案しています。今の5帯域(600MHz帯、700MHz帯、800MHzの携帯帯、PCS帯、AWS-Hブロック)は残し、次の8つを足します。

新しい帯域周波数幅
800MHz ESMR817〜824MHz、862〜869MHz7+7=14MHz
900MHz896〜901MHz、935〜940MHz5+5=10MHz
1.4GHz(2か所)1390〜1395MHz、1432〜1435MHz5+3=8MHz
1670〜1675MHz1670〜1675MHz5MHz
AWS(上り側)1695〜1780MHz85MHz
AWS(下り側)2110〜2180MHz70MHz
2.5GHz2500〜2690MHz190MHz
3.45GHz3450〜3550MHz100MHz
合計482MHz

足し算をすると、14+10+8+5+85+70+190+100 = 482MHz で、FCCの数字と一致します。今の344MHzと合わせると826MHzで、約2.4倍です。FCCが「2倍以上にする」と説明しているのは、この計算です。

482MHzのうち、2.5GHz帯(190MHz)と3.45GHz帯(100MHz)の合計は290MHzで、全体の約6割です。米国の大手携帯会社(AT&T、ベライゾン、Tモバイル)は、採決の直前に、この2つの帯域(290MHz)を案から外すよう求めたと報じられています。2つともTDDの帯域で、前提知識で説明した「混線の扱いが難しい」帯域です。Broadband Breakfastは、FCCの担当者が、TDDの帯域について意見を求める部分の書き方を調整したと伝えています。

なぜ重要か

1つ目は、「普通のスマホが、衛星と直接つながる」ための道路が、大きく広がることです。衛星とスマホの通信の速さは、幅の広さに強く左右されます。今の344MHzの多くは、低い電波です。高い帯域まで含めた482MHzが加わると、文字のやり取りや通話だけでなく、もっと多くのデータを運ぶ余地が生まれます。ただし、高い電波は遠くまで届きにくいので、衛星側に大きなアンテナや、電波を一点に絞る技術が必要になる、というのがぼくの考えです。

2つ目は、「全員と契約」の条件をやめることです。今の規則では、全米本土などの大きな地域で、同じ電波を持つすべての会社とリース契約をしないと、SCSができません。下書きによると、2024年以降に認められた4つのSCSの許可は、すべて、この規則の一部を免除(ウェーバー)して成り立っていました。FCC自身が「規則どおりでは、だれもサービスできていない」と認めた形で、それを規則のほうに合わせて直す提案です。

3つ目は、衛星会社と携帯会社の関係が変わりうることです。下書きは、スペースXが2026年にEchoStarから2GHz帯の衛星用の免許(AWS-4など)を引き継ぐことが承認されたこと、10月6日に新しいスマホ直接通信の衛星群が条件つきで認められたことにも触れています。衛星会社が自分で電波を持ち、携帯会社とは「共存の合意」だけで済むようになると、衛星会社は携帯会社の協力者から、競争相手にもなりえます。

これまでの流れ

時期できごと
2023年3月FCCが、SCSの規則づくりを提案
2024年3月SCSの最初の規則を決定(5帯域、全員とのリース、−120 dBW/m²/MHzの上限)
2024年〜スペースXとTモバイルなど、4つのSCSの許可。どれも規則の一部の免除つき
2025年3月スペースXの衛星に、もれる電波の上限より高い値を認める免除
2026年5月12日EchoStarからスペースXへの、2GHz帯などの免許の引き継ぎを承認
2026年10月6日スペースXの新しいスマホ直接通信の衛星群を、条件つきで承認
2026年10月8日今回の規則案の下書きを公表
2026年10月21日スペースXの子会社が、1695〜1710MHzの免許3つを引き継ぐことを承認
2026年10月29日公開会合で、規則案を全会一致で採決(報道)

技術・しくみ:なぜ「帯域ごと」に審査するのか

同じ「電波を足す」でも、帯域ごとに、となりにいる相手が違います。たとえば、下書きは、900MHz帯ではAnterix社とLynk Global社が試験免許でスマホ直接通信を試したことに触れ、その結果について意見を求めています。800MHzのESMR帯は、すぐとなりに警察や消防などの公共安全の無線があり、地域によって周波数の配置も違います。600MHz帯のすぐ下(608〜614MHz)には、宇宙からの弱い電波を聞く電波天文の帯域があります。

衛星は、上空から広い範囲に電波を出すので、地上の基地局よりも、となりの帯域に電波がもれたときの影響が広くなります。だから、FCCは「この帯域は使ってよいか」「どんな条件をつけるか」を、1つずつ、意見を聞いて決めようとしているのです。

友人に説明するときのポイント

  • 「482MHz」は、電波の幅の合計: 1つの周波数ではなく、8つの帯域の幅を足した数です。幅が広いほど、運べるデータが増えます。
  • 採決は「規則案」の採決: 10月29日の採決は、意見募集を始めるためのものです。13帯域が実際に使えるようになるのは、意見を集めて、最終の規則が決まってからです。
  • 低い電波は遠くまで、高い電波はたくさん: 衛星とスマホの通信に、2.5GHzや3.45GHzの高い帯域を入れるのは、速さを取りにいく挑戦です。
  • TDDは、混線の扱いが難しい: 同じ周波数を時間で交代して使うので、携帯会社が慎重になるのには、技術的な理由があります。

つづきの問い

もし、同じ電波を、地上の基地局と、上空の衛星が、同じ地域で使ったら、スマホはどちらの電波を受け取るのでしょうか。衛星が「携帯会社の電波」を使いながら、地上の通信とぶつからないためのしくみには、どんな工夫があるのでしょうか。

次に読む

出典

※確認状況(2026-10-30):規則案の内容、帯域と周波数、今の規則の条件、これまでの許可と免除は、FCCの10月8日の公表文書(下書き)で確認しました。10月29日の全会一致の採決と、担当者によるTDDの部分の調整は報道にもとづき、採決後の正式な文書(FCCの番号つき)と、下書きからの変更点の全体は、公式発表では確認できていません。携帯大手3社の290MHzの除外要望も報道ベースです。

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