スターシップ、テキサスから「年456回」へ。FAAが環境審査を開始。今の上限25回から18倍、着陸は年912回。官報を読んで、しくみと手続きを解説

確認日 2026年10月29日 / 読む時間 約7分

目次
  1. 3行まとめ
  2. 前提知識:環境審査、打ち上げの許可、「着陸の回数」
  3. 何が起きたか
  4. なぜ重要か
  5. 背景:なぜ、今、回数を増やすのか
  6. 技術・しくみ:打ち上げの「方向」と、機体の帰り道
  7. 何を調べるのか
  8. これまでの流れ
  9. 知っておくと使える、ニュースを読むときのポイント
  10. つづきの問い
  11. 次に読む
  12. 出典

米連邦航空局(FAA)は、2026年10月14日付の官報(Federal Register、文書番号2026-20963、案件番号FAA-2026-12808)で、スペースXがテキサス州スターベースのボカチカ発射場から行うスターシップの打ち上げと着陸を増やす計画について、計画全体の環境影響評価書(PEIS)を作ると告知しました。今の許可は年25回の打ち上げと年50回の着陸ですが、審査では、第1段階で年100回の打ち上げと年200回の着陸、第2段階で最大年456回の打ち上げと年912回の着陸を調べます。一般からの意見は2026年11月30日まで受け付け、11月17〜19日に説明会が開かれます。

AI生成のイメージ:海辺の発射場から、大型ロケットが夕方の空へ上昇し、近くの発射塔には別の機体が待機している様子(概念図で、実際の機体や施設の形とは異なります)
図1:イメージ(AI生成)。

3行まとめ

  • 米連邦航空局(FAA)は、2026年10月14日の官報で、スペースXのテキサス州スターベースからのスターシップの打ち上げを、今の年25回から最大で年456回に増やす計画について、環境影響評価書(PEIS)を作ると告知しました。
  • 審査は2段階です。第1段階は年100回の打ち上げと年200回の着陸(曜日・時間を問わない)、第2段階は年456回の打ち上げと年912回の着陸(月曜〜金曜のみ、時間は問わない)。
  • 一般からの意見は2026年11月30日まで。11月17日・19日にテキサス州で対面の説明会、18日にオンラインの説明会が開かれます。これは許可ではなく、審査の始まりです。

前提知識:環境審査、打ち上げの許可、「着陸の回数」

ロケットを飛ばすには、国の「許可証」がいります。 米国では、民間のロケットの打ち上げと帰還に、FAAの許可(ライセンス)が必要です。車でたとえると、運転免許のようなものですが、ロケットの場合は「この場所から、この方向へ、年に何回まで」というところまで決められます。スターベースからのスターシップの許可は、2025年の審査で決まった「年25回の打ち上げ、年50回の着陸(スターシップ25回、スーパーヘビー25回)」です(官報)。年25回は、ざっと2週間に1回のペースです。これを超えて飛ばしたいときは、許可を変える必要があり、その前に、次に書く環境審査を通ります。

環境審査は、「工事や事業の前に、まわりへの影響を調べて公開する手続き」です。 米国には、国家環境政策法(NEPA)という法律があり、国が許可を出す前に、騒音、空気、野生動物、水、文化財、地域の暮らしなどへの影響を調べることを求めています。日本の「環境アセスメント」に近いしくみです。軽い計画なら「環境評価(EA)」という短い手続きで済みますが、影響が大きいかもしれない計画は、より詳しい「環境影響評価書(EIS)」を作ります。今回の「PEIS」のPは「プログラム(計画全体)」の意味で、1回ごとの打ち上げではなく、何年もかけて回数を増やしていく計画全体を、まとめて調べる形です。

手続きの順番は、「告知→意見を集める→下書き→意見→完成→判断」です。 今回の官報は、その最初の「告知(NOI:作業を始めるお知らせ)」で、同時に「スコーピング」という期間が始まりました。スコーピングは、「何を調べるべきか」を、住民や自治体、専門家から集める期間です。そのあと、FAAが評価書の下書き(Draft PEIS)を公開し、もう一度意見を集めてから、最終版を作ります。官報は、下書きは「後日」公開するとだけ書いていて、完了の時期は示していません。

「着陸の回数」が、打ち上げの2倍になっているのは、2段とも戻ってくるからです。 スターシップは2段式のロケットで、1段目がスーパーヘビー(ブースター)、2段目が宇宙船のスターシップです(スターシップの基本)。使い捨てのロケットなら、打ち上げの回数だけを数えれば十分でした。でも、スターシップは2段とも戻ってきて、塔のアームでつかまえる(キャッチする)設計なので、「1回打ち上げると、着陸が2回」になります。456回×2=912回、100回×2=200回、という計算が、そのまま官報の数字に表れています。

何が起きたか

官報(FAA、2026年10月13日提出、10月14日公示)によると、FAAは、スペースXの次の計画について、環境影響評価書を作ると告知しました。

  • テキサス州スターベースのボカチカ発射場で、スターシップ・スーパーヘビーの打ち上げと着陸を増やすこと。
  • スターシップが着陸する場所と、使い捨てる(海に落とす)場所を広げること。

FAAは、今後の許可の変更や更新、打ち上げのときの一時的な空域の閉鎖も、この審査の対象に含めるとしています。

項目今の許可(2025年の審査)第1段階第2段階(上限)
打ち上げ年25回年100回年456回
着陸年50回年200回年912回
曜日・時間—曜日・時間を問わない月曜〜金曜のみ、時間は問わない
1週間あたりの目安(ぼくの計算)約0.5回約2回約8.8回

出典:FAA官報(2026年10月14日)。「1週間あたり」は、年の回数を52週で割った、ぼくの計算です。

第2段階について、官報は「年100回を超えて打ち上げる、成熟した計画」で、「数年のうちに」実施されると書いています。また、912回の着陸は、どこから打ち上げた機体かに関係なく、スターベースに着陸できる回数の上限だとしています。

なぜ重要か

スターシップの「量産・量産飛行」の段階に向けた、制度の準備だからです。 これまでのスターシップは、主に試験飛行でした。官報も、スターベースを「スターシップの主な研究・開発・試験飛行の発射場」と説明しています。年456回は、月曜〜金曜だけで数えると、1年の平日約261日に対して、1日あたり約1.75回です(ぼくの計算)。これは「試験」ではなく、飛行機の定期便に近い使い方を、制度の上で想定したことを意味します。

回数の上限は、技術ではなく、許可で決まる部分が大きいからです。 どんなに速くロケットを作れても、許可された回数を超えては飛ばせません。そして、許可の前には、今回のような何段階もの審査があります。ロケットの会社の「年に何回飛ばす」という目標を読むときは、機体を作る速さ・発射台の数・許可の上限の3つを、別々に見る必要があります。

背景:なぜ、今、回数を増やすのか

再使用のロケットは、たくさん飛ばして、はじめて安くなるからです。 スターシップは、1回の打ち上げに約5,250トンの推進剤を使う、巨大なロケットです(スターシップの基本)。機体を毎回作り直すと高くつきますが、2段とも戻して使い回せば、1回あたりの費用は、主に燃料と整備になります。官報も、スターシップとスーパーヘビーは「飛行後の整備が最小限で済むよう設計されている」と書いています。

月へ行くには、燃料補給のための打ち上げが何度も必要だからです。 NASAの月着陸に使うスターシップは、地球を回る軌道で、別のスターシップから燃料を受け取ってから月へ向かう計画です。その補給には複数回の打ち上げが必要です(月へ行くための燃料補給の回数)。短い期間に何度も打ち上げられることが、計画の前提になっています。

技術・しくみ:打ち上げの「方向」と、機体の帰り道

官報は、打ち上げと着陸の方向も数字で示しています。方向は、北を0度、東を90度、南を180度、西を270度とする「方位角」で表します。

対象方向(方位角)意味(ぼくの読み方)
打ち上げ40度〜115度北東〜東南東。メキシコ湾の上を通る方向
スーパーヘビーの帰り道打ち上げと同じ範囲の中上がった方向から、発射場へ戻る
スターシップの帰り道155〜185度、240〜340度南側から、または西〜北西側から、発射場へ近づく

なぜ東向きに打ち上げるのか。 地球は西から東へ自転していて、地面そのものが東へ動いています。東へ打ち上げると、その速さを「おまけ」として使えるので、燃料を節約できます。スターベースはメキシコ湾の西の端にあり、東側が海なので、人の住む場所の上を通らずに東へ打ち上げられます。

スターシップの帰り道が、西や北西からもあるのは、地球を回ってくるからです。 宇宙船は、地球を回る軌道から帰ってくるので、打ち上げとは違う方向から近づきます。官報の240〜340度は、陸の上空を通って発射場へ戻る道筋になりえます。ぼくの考えだけど、ここが、騒音や空域の閉鎖の影響を調べるうえで、重要な点になりそうです。

機体が戻れないときの扱いも決めています。 官報によると、スーパーヘビーは、発射場に着陸するか、メキシコ湾に軟着水するか、飛行中に使い捨てにします。スターシップは、発射場に着陸するか、メキシコ湾か外洋に軟着水するか、外洋で使い捨てにします。審査では、打ち上げと着陸の半分が昼(午前7時〜午後10時)、半分が夜(午後10時〜午前7時)に行われると仮定して調べます。

何を調べるのか

官報は、調べる項目として、航空機の排出と空気の質、動植物、海岸、農地、有害物質と廃棄物、歴史・考古・文化財、土地の使い方、エネルギー、騒音、地域経済と子どもの健康・安全、景観、水(湿地、洪水、地下水など)を挙げています。あわせて、米国魚類野生生物局と米国海洋漁業局とは絶滅危惧種への影響について、文化財については国家歴史保存法に基づいて、協議を始めます。

比べる相手は「何もしない場合(今の年25回のまま)」だけです。官報は、スターベースにはすでに打ち上げに必要な設備がそろっているので、ほかの場所は合理的な代わりにならない、と説明しています。

これまでの流れ

  • 2025年: FAAが、スターベースからの打ち上げを年25回まで認める、追加の環境評価(Tiered EA)を完了しました(官報で言及)。
  • 2026年10月14日: 今回の官報の公示。スコーピング(意見募集)が始まりました。
  • これから: 11月2日までに、説明会での配慮の希望を受け付け。11月10日までに英語・スペイン語の説明資料を公開。11月17日(ブラウンズビル)・18日(オンライン)・19日(ポートイザベル)に説明会。11月30日に意見の締め切り。その後、評価書の下書きを公開します。

知っておくと使える、ニュースを読むときのポイント

  • 「審査開始」と「許可」は別物:今回は、調べる範囲を決める最初の段階です。年456回が認められたわけではありません。
  • 着陸の回数は、打ち上げの2倍が目安:2段とも戻る再使用ロケットでは、「着陸=打ち上げ×2」と数えます。
  • 年の回数を、1週間・1日に直すと実感がわく:年25回=2週間に1回、年100回=週2回、年456回=平日1日に約1.75回。
  • よくある誤解:「1万回」のような会社の長期目標と、FAAが審査する上限の数字は、別のものです。今回の数字は、この発射場1か所についての、審査の上限です。

つづきの問い

平日に1日1.75回も飛ばすには、1つの発射台を、何時間で次の打ち上げに使えるようにすればよいのでしょうか。33基のエンジンの炎を受けた発射台と、機体をつかまえる塔の「折り返し時間」を知ると、年456回の本当の難しさが見えてきます。

次に読む

出典

※回数、段階、方向、日程は、FAAの官報の原本で確認しました(2026-10-29時点)。確認状況:審査の完了時期と、第2段階に入る具体的な年は、官報に書かれていません。

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