スペースXの公式ページとXの投稿によると、ファルコン9は2026年10月31日(日本時間の午後1時台)に、バンデンバーグ宇宙軍基地の発射台SLC-4Eから、スターリンク衛星27機を低軌道へ打ち上げました(ミッション名「Starlink 15-18」)。1段目のブースターは18回目の飛行で、これまでに宇宙開発庁(SDA)のSDA-T1TL-BとSDA-T1TL-C、相乗りのTransporter-16、14回のスターリンクを運んでいます。1段目は太平洋の無人船「Of Course I Still Love You」に着陸したと報じられています。
3行まとめ
- スペースXは、2026年10月31日(日本時間の午後1時台)、カリフォルニア州のバンデンバーグ宇宙軍基地から、ファルコン9でスターリンク衛星27機を打ち上げました(公式のミッション名は「Starlink 15-18」)。
- 1段目のブースターは18回目の飛行です。米国防総省の宇宙開発庁(SDA)の軍用通信衛星を2回、相乗りの小型衛星を1回、スターリンクを14回運んできた機体です。
- 公式の時刻表には、1段目が戻ってくるときの「再突入噴射」(約23秒)と「着陸噴射」(約22秒)が載っています。速さを2回に分けて消すことが、海の上の船に立って降りるための鍵です。
前提知識:速さ、燃料、そして「ブレーキはエンジンしかない」
ロケットの1段目は、切り離されるとき、とても速く飛んでいます。 公式の時刻表では、1段目のエンジンが止まるのは打ち上げから2分26秒後です。このとき、機体は高さ数十kmのところを、音の何倍もの速さで飛んでいます。高さはジェット旅客機(約10km)の何倍も上で、ほとんど宇宙の入り口です。ここから地上に戻ってくるには、この速さを、ほぼゼロまで落とさなければなりません。
宇宙の近くには、ブレーキをかける「地面」も「空気」もほとんどありません。 自動車は、タイヤと道路の摩擦でブレーキをかけます。飛行機は、空気の抵抗や、車輪のブレーキを使います。ところが、高さ数十kmの空は、空気がとても薄く、つかまるものがありません。そこで、ファルコン9の1段目は、進んでいる向きと反対に、エンジンを噴かして減速します。下向きに落ちている機体が、下向きに炎を出すことで、自分を押し返すわけです。ロケットにとって、エンジンは「アクセル」であり、同時に唯一の「ブレーキ」でもあります。
ブレーキに使う燃料は、その分、荷物を減らします。 ここがロケットの難しいところです。1段目が帰ってくるための燃料は、打ち上げのときから積んでおかなければなりません。燃料を多く残すほど、衛星を運ぶための力は減ります。たとえるなら、登山で「帰りの水」をリュックに入れておくと、その分、山頂に持っていけるお弁当が減るようなものです。だから、帰りに使う燃料は、できるだけ少なくしたい。今回のように、海の上の船に降りるのは、そのための工夫です(あとで詳しく説明します)。
数字の目安を一つ。 秒速1kmの速さ(時速3,600km)は、新幹線(時速約300km)のおよそ12倍です。1段目が切り離されるときの速さは、これよりさらに速い、というのが一般的な説明です。この速さで空気の濃いところに突っ込むと、機体は空気との押し合いで強く熱せられます。これが、次に出てくる「再突入噴射」が必要な理由です。
何が起きたか
SpaceXの公式ページとXの投稿で確認できた事実は、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ミッション | Starlink 15-18 |
| 日時 | 2026年10月31日 日本時間の午後1時台(米国太平洋時間では30日の夜) |
| ロケット | ファルコン9 |
| 発射場所 | バンデンバーグ宇宙軍基地(カリフォルニア州)の発射台SLC-4E |
| 運んだもの | スターリンク衛星27機(低軌道へ) |
| 1段目 | この打ち上げが18回目の飛行 |
| 着陸の計画 | 太平洋の無人船「Of Course I Still Love You」 |
| 中継 | SpaceXのX(日本時間31日午後0時53分に中継を開始) |
専門メディアのSpaceflight Nowは、打ち上げを太平洋夏時間30日午後9時4分(日本時間31日午後1時4分)、1段目の機体番号をB1093と伝え、約8分半後に無人船への着陸に成功したと報じています。同じ記事は、この打ち上げがファルコン9の通算700回目だったとしています。
このブースターの「経歴」:軍の通信網の衛星
公式ページによると、今回の1段目は、これまでに次の打ち上げを担当しています。
| これまでの仕事 | どんな打ち上げか |
|---|---|
| SDA-T1TL-B | 宇宙開発庁(SDA)の「トランシェ1・トランスポート層」の衛星 |
| SDA-T1TL-C | 同じく、トランシェ1・トランスポート層の衛星 |
| Transporter-16 | 多くの小型衛星をまとめて運ぶ、相乗りのミッション |
| スターリンク 14回 | 自社の通信衛星 |
宇宙開発庁(SDA)は、米国防総省の組織です。 「T1TL」は、Tranche 1(第1期)の Transport Layer(トランスポート層)の略です。トランスポート層は、低軌道にたくさんの衛星を並べ、衛星どうしを通信でつないで、軍のデータを運ぶ「宇宙のネットワーク」です。低軌道に多数の衛星を並べ、衛星間をつなぐという考え方は、スターリンクとよく似ています。
ぼくの考えだけど、ここに、再使用のロケットの面白さがあります。国の通信網の衛星を運んだ機体が、点検を受けて、次は自社の通信網の衛星を運ぶ。「運ぶもの」は違っても、「低軌道に、たくさんの衛星を、何度も届ける」という仕事は同じです。1機の1段目を何度も使えることが、どちらの通信網を育てる速さにも効いています。
技術・しくみ:海の上に降りるまでの約6分間
公式の時刻表(すべて「おおよその時刻」)から、1段目の動きだけを抜き出すと、こうなります。
| 打ち上げからの時間 | 1段目に起きること |
|---|---|
| 1分8秒 | マックスQ(機体にかかる風圧が最大になる瞬間) |
| 2分26秒 | 1段目のエンジン停止(MECO) |
| 2分29秒 | 1段目と2段目が分離 |
| 6分1秒〜6分24秒 | 再突入噴射(約23秒) |
| 7分58秒〜8分20秒 | 着陸噴射(約22秒) |
| 8分20秒 | 無人船に着陸 |
分離から再突入噴射まで、約3分半は、エンジンを止めたまま飛んでいます。 投げたボールが、山なりに上がって、落ちてくるのと同じです。1段目は、分離したあとも勢いで上り続け、いちばん高いところを越えて、落ち始めます。この間、機体は、小さなガスの噴射口(姿勢制御の装置)と、上のほうにある格子状の羽(グリッドフィン)で、向きを整えます。エンジンを下に向けた「お尻から落ちる」姿勢にしておかないと、次のブレーキがかけられないからです。
再突入噴射は、「熱から身を守るためのブレーキ」です。 落ちてきた1段目は、空気の濃い高さに入る手前で、エンジンを約23秒噴かして、大きく減速します。前提知識で書いたとおり、速いまま濃い空気に突っ込むと、機体は強く熱せられ、強い力も受けます。先に速さを落としておくことで、その熱と力を、機体が耐えられる範囲に収めます。宇宙船のように分厚い耐熱の殻を持たない1段目が、何度も帰ってこられるのは、このブレーキがあるからです。
着陸噴射は、「ぴたりと止まるためのブレーキ」です。 再突入噴射のあと、1段目は、空気の抵抗も使いながら落ちていきます。そして、着陸の約22秒前にもう一度エンジンを点け、船の甲板の上で、ちょうど速さがゼロになるように減速します。脚を開いて、甲板に立ったら、エンジンを止めます。高すぎるところで止まれば、また落ちてしまい、低すぎれば、ぶつかります。止まるべき「高さ」と「時刻」を、コンピューターが計算し続けて、エンジンの強さと向きを細かく調整しています。
なぜ、陸ではなく、海の上の船なのか。 1段目は、分離したとき、打ち上げの勢いで、発射場から遠ざかる向きに飛んでいます。発射場に戻るには、まずその向きの速さを消し、さらに反対向きに加速する噴射(ブーストバック)が必要で、そのぶん燃料をたくさん使います。一方、1段目が自然に落ちていく先の海に船を置いておけば、その噴射をしなくてすみ、帰りの燃料が少なくてすむ。そのぶん、衛星27機という重い荷物を運べます。今回の時刻表にも、ブーストバックの噴射はありません。
なぜ重要か
今回の打ち上げで大事なのは、「特別なことが起きなかった」ことです。 2015年12月に、ファルコン9の1段目がはじめて陸に降りたとき、それは世界中が注目する出来事でした(詳しくはこちら)。今回、18回目の飛行の1段目が、約23秒と約22秒の2回のブレーキで、太平洋の船に降りたことは、ほとんど話題になりません。それだけ、着陸が「いつもの手順」になったということです。
通算700回目という数字(報道)も、この「いつもの手順」の積み重ねです。 1回の打ち上げで、1段目を毎回捨てていたら、700回の打ち上げには、700機の1段目が必要です。再使用によって、同じ機体を十数回から数十回使えるようになったことで、作る機体の数よりはるかに多い打ち上げができています。打ち上げの回数が増えれば、スターリンクのような、何千機もの衛星を並べる通信網を、現実的な速さで育てられます。
知っておくと使える、ニュースを読むときのポイント
- 「エンジン=ブレーキ」と覚える: 宇宙の近くでは、空気も地面も使えません。ロケットの減速は、逆向きにエンジンを噴かすことです。
- 着陸の場所は、燃料の余裕で決まる: 荷物が重いほど、帰りの燃料は少なくなり、海の上の船への着陸になりやすい。軽い荷物なら、発射場の近くに戻れることもあります。
- 時刻表の「entry burn」と「landing burn」を見る: SpaceXの公式ページの時刻表に、毎回、1段目の2回のブレーキの時刻が載っています。秒数を比べると、ミッションごとの違いが見えてきます。
- よくある誤解: 「1段目はパラシュートで降りる」わけではありません。ファルコン9の1段目は、エンジンと脚で、立ったまま降ります。
これまでの流れ
- 2015年12月: ファルコン9の1段目が、はじめて着陸に成功しました(記事)。
- 2017年3月: 一度飛んだ1段目を、もう一度打ち上げる「再使用」の初飛行が行われました。
- これまで: 今回の1段目は、SDA-T1TL-B、SDA-T1TL-C、Transporter-16と、14回のスターリンクを打ち上げてきました(SpaceX公式)。
- 2026年10月27日: 同じ発射台SLC-4Eから、26回目の飛行のブースターで「Starlink 15-16」を打ち上げました(記事)。
- 2026年10月31日: 18回目の飛行のブースターで「Starlink 15-18」を打ち上げました。Spaceflight Nowは、1段目の着陸成功と、ファルコン9の通算700回目を報じています。
つづきの問い
発射場に戻る着陸と、海の上の船への着陸では、運べる衛星の重さは、実際にどれくらい変わるのでしょうか。その差がわかると、SpaceXが、なぜ太平洋と大西洋に、何隻もの無人船を置いているのかが見えてきます。
次に読む
- 4日ぶりにまた27機。ファルコン9「Starlink 15-16」と、軍の衛星もライバルの衛星も運んだブースターの26回目の飛行
- ファルコン9とは?大きさ、エンジン、運べる重さ、再使用のしくみを、SpaceX公式ページで確認
- ロケットの値段(再使用で、打ち上げの費用はどう変わるのか)
出典
- SpaceX「Starlink Mission」(Starlink 15-18) → https://www.spacex.com/launches/sl-15-18
- SpaceXのX(打ち上げの中継) → https://x.com/SpaceX/status/2116378109218009267
- Spaceflight Now「Live coverage: SpaceX to close out October with Halloween eve Falcon 9 launch」 → https://spaceflightnow.com/2026/10/30/live-coverage-spacex-to-close-out-october-with-halloween-eve-falcon-9-launch/
※確認状況: 打ち上げの場所・衛星の数・ブースターの飛行回数と経歴・時刻表はSpaceXの公式ページ、中継の開始はSpaceXのXで確認しました(2026-10-31時点)。打ち上げの正確な時刻、機体番号B1093、1段目の着陸成功、ファルコン9の通算700回目は、Spaceflight Nowの報道にもとづきます。
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