ロケットが逆立ちして降りてきた日 ― ファルコン9の着陸の失敗と成功、そして再使用の初飛行(2015〜2017年)

確認日 2026年10月12日 / 読む時間 約9分

目次
  1. なぜ、ロケットを降ろすのか
  2. 第1段を「船」に降ろす、という挑戦
  3. 2015年1月10日、CRS-5 ― 初の「船」への挑戦
  4. 2015年4月14日、CRS-6 ― 立ったのに、倒れた
  5. 2015年12月21日 ― 初めて、地上に立った
  6. 2016年1月・3月 ― 船への着陸、また失敗
  7. 2016年4月8日 ― 洋上の船に、直立
  8. 2017年3月30日 ― 同じロケットが、もう一度、飛んだ
  9. 次に、何が待っているのか
  10. よくある質問
  11. まとめ
  12. 出典(確認日 2026-10-12)

スペースXは、2015年1月から2016年3月まで、ファルコン9の第1段を、海に浮かぶ船に降ろす試みに4回失敗しました。それでも2015年12月21日に、初の地上着陸に成功。2016年4月8日にはドローン船への着陸に成功し、2017年3月30日には、その機体を再び打ち上げました。

ファルコン9の着陸と再使用の年表。2015年1月10日CRS-5、4月14日CRS-6、2016年1月17日Jason-3、3月4日SES-9はドローン船への着陸に失敗。2015年12月21日に初の地上着陸に成功。2016年4月8日に初のドローン船への着陸に成功。2017年3月30日、再使用したブースターを打ち上げ
図1:ファルコン9の着陸の挑戦(AI生成のイメージ。日付は報道ベース)。

空へ向かったロケットが、役目を終えて、逆立ちのまま、ふたたび地上に降りてくる。

今では映像でおなじみの光景ですが、2010年代のはじめまでは、ロケットの第1段は、使い捨てが当たり前でした。前の記事で見たとおり、スペースXは、ファルコン9で軌道に届き、Dragonを宇宙ステーションに届けました。次にマスクが挑んだのは、打ち上げたロケットを、もう一度使うことです。

この記事では、2015年から2017年の、着陸の失敗と成功を、順に追います。

なぜ、ロケットを降ろすのか

第3話で、マスクが「ロケットの材料費は、売値のごく一部だ」と語った話を見ました(本人の説明で、第三者の確認はできていません)。同じ考え方で、再使用の意味を、マスクは次のように語っています。

2017年3月30日、再使用したブースターの着陸の直後、マスクは、次のような趣旨を述べたと報じられています(Scientific Americanの記事)。

マスクの発言(趣旨)

再使用とは、「ロケットのなかで最も高い部分」である、軌道まで行くブースターを、何度も飛ばせるということだ。

使い捨ては、飛行機で言えば、1回飛ぶたびに機体を捨てるようなものです。いちばん高い部分を使い回せれば、打ち上げの値段は、下がるはず。これが、着陸に挑んだ理由です。

第1段を「船」に降ろす、という挑戦

ここで、ロケットの「第1段」の話をしておきます。ロケットは、2つの部分(段)に分かれていて、下の第1段は、打ち上げの最初の数分で燃料を使い切り、切り離されます。ふつうは、そのまま海に落ちます。

スペースXは、この第1段を、自分で向きを変えて、エンジンを再び点火し、逆立ちのまま、地上や海の上の船に、ゆっくり降ろすことを考えました。地上に降りるには、打ち上げ場所の近くに戻ればよいのですが、重い衛星を運ぶ打ち上げでは、燃料に余裕がなく、そこまで戻れません。そこで、海に浮かぶ、無人の船(ドローン船)を着陸の場所にすることになりました。

2015年1月10日、CRS-5 ― 初の「船」への挑戦

最初の挑戦は、2015年1月10日の、Dragonを国際宇宙ステーションに送る打ち上げ(CRS-5)です。第1段は、大西洋に浮かぶドローン船をめざしました。

結果は、失敗でした。CBS Newsは、のちの記事で、この最初の挑戦を、「油圧系統の故障で、はしけに墜落した」と書いています。マスク本人も、グリッドフィン(降下中に向きを整える、格子状の小さな翼)の油圧の液が、着陸の直前に足りなくなったと説明した、と報じられています(Space.comの見出し。本文は、私は確認できていません)。

2015年4月14日、CRS-6 ― 立ったのに、倒れた

2回目は、2015年4月14日。打ち上げ前、マスクは、成功の確率を約50%と述べていました(Spaceflight Nowの記事)。

今回は、第1段は、ドローン船の上まで来ました。けれども、横向きの動きが残ったまま着地し、一度ぐらついたあと、転倒して、爆発したと報じられています。同じ記事は、これまでの海の上の試みよりも、成功に近づいたと書いています。

原因について、マスクは4月18日に、次のように投稿しました。

マスクの投稿(要旨)

着陸が荒くなった原因は、エンジンの出力を調整する「スロットルバルブ」の反応が、予想より遅かったことだと確認した。次の挑戦は2か月後。

(原文:"slower than expected throttle valve response"。Spaceflight Nowによる引用)

2015年12月21日 ― 初めて、地上に立った

そして、2015年12月21日。

この日の打ち上げは、フロリダ州のケープカナベラル空軍基地から、ORBCOMM社の通信衛星11機を運ぶものでした。第1段は、衛星を送り出したあと、打ち上げ場所の近くの「着陸ゾーン1(Landing Zone 1)」に、4本の脚を広げて、垂直に降りました(CBS News)。ここは、元は、大陸間弾道ミサイル(アトラス)の発射施設だった場所です。

マスクは、「ミッションで、ここまで見たものは、すべて完璧に見える」「これ以上は望めないミッションだった」と述べた、と報じられています。ブースターは、パッドのほぼ真ん中に降りた、とも伝えられています。

ここが、歴史の分かれ目

宇宙へ行った(軌道に衛星を送った)ロケットの第1段が、地上に降りて、立った。着陸の「可能性」が、はじめて、現実になった日です。

2016年1月・3月 ― 船への着陸、また失敗

ところが、「船」への着陸は、そう簡単ではありませんでした。

2016年1月17日(Jason-3)。 米国西海岸のヴァンデンバーグ空軍基地から、気象観測衛星Jason-3を打ち上げ。第1段は、サンディエゴの西、約200マイルの海上の船に降りましたが、脚が1本折れて、転倒しました(AP通信)。マスクは、「着地の速度は問題なかったが、脚のロックが、かからなかったため、着地後に倒れた」という趣旨を、ツイートしました。

2016年3月4日(SES-9)。 衛星をとても高い軌道まで運ぶ打ち上げで、燃料の余裕が小さく、帰りの速度も速くなりました。第1段は、船の上に、硬く着地して失敗。船への着陸は、これで4回目の失敗でした(Fortune)。マスクは、「今回は、うまくいくとは思っていなかった(再突入が、とても熱かった)が、次の飛行には、よい見込みがある」という趣旨を、投稿しています。

着陸の失敗4回。CRS-5は油圧、CRS-6はスロットルバルブの反応が遅れた、Jason-3は脚のロックがかからなかった、SES-9は高い軌道のため再突入が熱く燃料の余裕が小さかった
図2:4回の失敗は、それぞれ別の原因(AI生成のイメージ。原因は、報道とマスクの説明による)。
筆者の読み解き(確認した事実ではありません)

失敗の原因が、毎回ちがうことは、第4話のファルコン1と、よく似ています。「同じ失敗を繰り返さず、一つずつ原因を取り除く」進め方に見えます。ただし、スペースXの内部で、実際にどう改善したのかは、確認していません。

2016年4月8日 ― 洋上の船に、直立

そして、5回目の挑戦、2016年4月8日。

フロリダ州のケープカナベラルから、Dragonを宇宙ステーションに送る打ち上げ(CRS-8)。第1段は、約10分後に、約200マイル沖の大西洋の、ドローン船「Of Course I Still Love You(それでも、きみを愛しているよ、の意味)」の上に、まっすぐ降りました(Universe Today)。

同じ記事は、これを、「洋上の船への、第1段の初の直立着陸」と呼んでいます。

2017年3月30日 ― 同じロケットが、もう一度、飛んだ

最後の場面です。

2016年8月、衛星会社のSESが、すでに一度飛んだ、ブースターを使って、衛星SES-10を打ち上げると発表しました(CBS News)。そして、2017年3月30日。フロリダ州のケネディ宇宙センターの39A発射台から、SES-10が打ち上げられました。ブースターは、2016年4月に、CRS-8でドローン船に降りた、あの機体です(Scientific American)。

第1段は、再び、ドローン船「Of Course I Still Love You」に、柔らかく着陸しました。さらに、衛星を包むカバー(フェアリング)も、スラスターとパラシュートで、大西洋に静かに降ろされたと報じられています。

マスクは、着陸の直後に、「宇宙産業にとって、すばらしい日だ」と述べました。また、「軌道まで行くブースターを、何度も飛ばせる。それは、ロケットのなかで、いちばん高い部分だ」「最終的には、宇宙飛行の、大きな革命になる」という趣旨を語っています(Scientific American)。この時点で、スペースXは、第1段を9回着陸させていました(ドローン船6回、地上3回)。

再使用の初飛行。2016年4月8日にCRS-8で飛んでドローン船に着陸したブースターが、2017年3月30日にSES-10を打ち上げ、再びドローン船に着陸した
図3:一度飛んだブースターが、もう一度、飛んだ(AI生成のイメージ)。

次に、何が待っているのか

着陸は、もう「実験」ではなくなりました。ロケットは、ふたたび飛び、また降りる。

一方、電気自動車の側では、まったく別の種類の難しさが、テスラを待っていました。1台の高級車ではなく、ものすごい数の、手の届く価格の車を、作るという挑戦です。

よくある質問

ロケットの着陸は、スペースXが世界で初めてですか?

この記事で確認できたのは、「ファルコン9の第1段が、軌道へ衛星を送ったあと、地上と船に垂直に降りた」という、スペースXの記録です。「世界で初めて」かどうかの厳密な定義(軌道クラスに限るか、など)は、この記事では確認していません。

なぜ、地上ではなく、船に降ろすのですか?

重い衛星や、高い軌道へ運ぶ打ち上げでは、第1段が、打ち上げ場所の近くまで戻る燃料の余裕が、少なくなるためだと考えられます(SES-9の報道では、燃料の余裕の小ささが、失敗の背景として挙げられています)。

再使用で、打ち上げの値段は、いくら下がりましたか?

この記事では、確認できていません。マスクは「ロケットでいちばん高い部分を再使用できる」と述べていますが、具体的な値下がりの率は、この記事の出典には書かれていません。

まとめ

  • 2015年1月10日(CRS-5):初のドローン船への挑戦。油圧系統の故障で、墜落と報じられた。
  • 2015年4月14日(CRS-6):船の上で転倒。マスクは、原因を、スロットルバルブの反応の遅れと説明。
  • 2015年12月21日:ケープカナベラルの着陸ゾーン1に、初の地上着陸に成功(ORBCOMMの衛星11機)。
  • 2016年1月17日(Jason-3)、3月4日(SES-9):船への着陸に、さらに失敗(脚のロック不良、高い軌道による燃料不足)。
  • 2016年4月8日(CRS-8):ドローン船への初の着陸に成功。
  • 2017年3月30日(SES-10):再使用したブースターで、初の打ち上げ。再び、船に着陸。

次の記事:ロケットが、使い回せる時代に近づいたころ、電気自動車のテスラは、「生産地獄」と呼ばれた、もっと難しい時期に入っていきます。

出典(確認日 2026-10-12)

この記事は、科学技術と企業の歴史の学習を目的としたもので、投資の助言ではありません。事実と筆者の読み解きは、区別して書いています。図はAIで生成したイメージです。