スペースXは、2015年1月から2016年3月まで、ファルコン9の第1段を、海に浮かぶ船に降ろす試みに4回失敗しました。それでも2015年12月21日に、初の地上着陸に成功。2016年4月8日にはドローン船への着陸に成功し、2017年3月30日には、その機体を再び打ち上げました。

空へ向かったロケットが、役目を終えて、逆立ちのまま、ふたたび地上に降りてくる。
今では映像でおなじみの光景ですが、2010年代のはじめまでは、ロケットの第1段は、使い捨てが当たり前でした。前の記事で見たとおり、スペースXは、ファルコン9で軌道に届き、Dragonを宇宙ステーションに届けました。次にマスクが挑んだのは、打ち上げたロケットを、もう一度使うことです。
この記事では、2015年から2017年の、着陸の失敗と成功を、順に追います。
なぜ、ロケットを降ろすのか
第3話で、マスクが「ロケットの材料費は、売値のごく一部だ」と語った話を見ました(本人の説明で、第三者の確認はできていません)。同じ考え方で、再使用の意味を、マスクは次のように語っています。
2017年3月30日、再使用したブースターの着陸の直後、マスクは、次のような趣旨を述べたと報じられています(Scientific Americanの記事)。
再使用とは、「ロケットのなかで最も高い部分」である、軌道まで行くブースターを、何度も飛ばせるということだ。
使い捨ては、飛行機で言えば、1回飛ぶたびに機体を捨てるようなものです。いちばん高い部分を使い回せれば、打ち上げの値段は、下がるはず。これが、着陸に挑んだ理由です。
第1段を「船」に降ろす、という挑戦
ここで、ロケットの「第1段」の話をしておきます。ロケットは、2つの部分(段)に分かれていて、下の第1段は、打ち上げの最初の数分で燃料を使い切り、切り離されます。ふつうは、そのまま海に落ちます。
スペースXは、この第1段を、自分で向きを変えて、エンジンを再び点火し、逆立ちのまま、地上や海の上の船に、ゆっくり降ろすことを考えました。地上に降りるには、打ち上げ場所の近くに戻ればよいのですが、重い衛星を運ぶ打ち上げでは、燃料に余裕がなく、そこまで戻れません。そこで、海に浮かぶ、無人の船(ドローン船)を着陸の場所にすることになりました。
2015年1月10日、CRS-5 ― 初の「船」への挑戦
最初の挑戦は、2015年1月10日の、Dragonを国際宇宙ステーションに送る打ち上げ(CRS-5)です。第1段は、大西洋に浮かぶドローン船をめざしました。
結果は、失敗でした。CBS Newsは、のちの記事で、この最初の挑戦を、「油圧系統の故障で、はしけに墜落した」と書いています。マスク本人も、グリッドフィン(降下中に向きを整える、格子状の小さな翼)の油圧の液が、着陸の直前に足りなくなったと説明した、と報じられています(Space.comの見出し。本文は、私は確認できていません)。
2015年4月14日、CRS-6 ― 立ったのに、倒れた
2回目は、2015年4月14日。打ち上げ前、マスクは、成功の確率を約50%と述べていました(Spaceflight Nowの記事)。
今回は、第1段は、ドローン船の上まで来ました。けれども、横向きの動きが残ったまま着地し、一度ぐらついたあと、転倒して、爆発したと報じられています。同じ記事は、これまでの海の上の試みよりも、成功に近づいたと書いています。
原因について、マスクは4月18日に、次のように投稿しました。
着陸が荒くなった原因は、エンジンの出力を調整する「スロットルバルブ」の反応が、予想より遅かったことだと確認した。次の挑戦は2か月後。
(原文:"slower than expected throttle valve response"。Spaceflight Nowによる引用)
2015年12月21日 ― 初めて、地上に立った
そして、2015年12月21日。
この日の打ち上げは、フロリダ州のケープカナベラル空軍基地から、ORBCOMM社の通信衛星11機を運ぶものでした。第1段は、衛星を送り出したあと、打ち上げ場所の近くの「着陸ゾーン1(Landing Zone 1)」に、4本の脚を広げて、垂直に降りました(CBS News)。ここは、元は、大陸間弾道ミサイル(アトラス)の発射施設だった場所です。
マスクは、「ミッションで、ここまで見たものは、すべて完璧に見える」「これ以上は望めないミッションだった」と述べた、と報じられています。ブースターは、パッドのほぼ真ん中に降りた、とも伝えられています。
宇宙へ行った(軌道に衛星を送った)ロケットの第1段が、地上に降りて、立った。着陸の「可能性」が、はじめて、現実になった日です。
2016年1月・3月 ― 船への着陸、また失敗
ところが、「船」への着陸は、そう簡単ではありませんでした。
2016年1月17日(Jason-3)。 米国西海岸のヴァンデンバーグ空軍基地から、気象観測衛星Jason-3を打ち上げ。第1段は、サンディエゴの西、約200マイルの海上の船に降りましたが、脚が1本折れて、転倒しました(AP通信)。マスクは、「着地の速度は問題なかったが、脚のロックが、かからなかったため、着地後に倒れた」という趣旨を、ツイートしました。
2016年3月4日(SES-9)。 衛星をとても高い軌道まで運ぶ打ち上げで、燃料の余裕が小さく、帰りの速度も速くなりました。第1段は、船の上に、硬く着地して失敗。船への着陸は、これで4回目の失敗でした(Fortune)。マスクは、「今回は、うまくいくとは思っていなかった(再突入が、とても熱かった)が、次の飛行には、よい見込みがある」という趣旨を、投稿しています。

失敗の原因が、毎回ちがうことは、第4話のファルコン1と、よく似ています。「同じ失敗を繰り返さず、一つずつ原因を取り除く」進め方に見えます。ただし、スペースXの内部で、実際にどう改善したのかは、確認していません。
2016年4月8日 ― 洋上の船に、直立
そして、5回目の挑戦、2016年4月8日。
フロリダ州のケープカナベラルから、Dragonを宇宙ステーションに送る打ち上げ(CRS-8)。第1段は、約10分後に、約200マイル沖の大西洋の、ドローン船「Of Course I Still Love You(それでも、きみを愛しているよ、の意味)」の上に、まっすぐ降りました(Universe Today)。
同じ記事は、これを、「洋上の船への、第1段の初の直立着陸」と呼んでいます。
2017年3月30日 ― 同じロケットが、もう一度、飛んだ
最後の場面です。
2016年8月、衛星会社のSESが、すでに一度飛んだ、ブースターを使って、衛星SES-10を打ち上げると発表しました(CBS News)。そして、2017年3月30日。フロリダ州のケネディ宇宙センターの39A発射台から、SES-10が打ち上げられました。ブースターは、2016年4月に、CRS-8でドローン船に降りた、あの機体です(Scientific American)。
第1段は、再び、ドローン船「Of Course I Still Love You」に、柔らかく着陸しました。さらに、衛星を包むカバー(フェアリング)も、スラスターとパラシュートで、大西洋に静かに降ろされたと報じられています。
マスクは、着陸の直後に、「宇宙産業にとって、すばらしい日だ」と述べました。また、「軌道まで行くブースターを、何度も飛ばせる。それは、ロケットのなかで、いちばん高い部分だ」「最終的には、宇宙飛行の、大きな革命になる」という趣旨を語っています(Scientific American)。この時点で、スペースXは、第1段を9回着陸させていました(ドローン船6回、地上3回)。

次に、何が待っているのか
着陸は、もう「実験」ではなくなりました。ロケットは、ふたたび飛び、また降りる。
一方、電気自動車の側では、まったく別の種類の難しさが、テスラを待っていました。1台の高級車ではなく、ものすごい数の、手の届く価格の車を、作るという挑戦です。
よくある質問
ロケットの着陸は、スペースXが世界で初めてですか?
この記事で確認できたのは、「ファルコン9の第1段が、軌道へ衛星を送ったあと、地上と船に垂直に降りた」という、スペースXの記録です。「世界で初めて」かどうかの厳密な定義(軌道クラスに限るか、など)は、この記事では確認していません。
なぜ、地上ではなく、船に降ろすのですか?
重い衛星や、高い軌道へ運ぶ打ち上げでは、第1段が、打ち上げ場所の近くまで戻る燃料の余裕が、少なくなるためだと考えられます(SES-9の報道では、燃料の余裕の小ささが、失敗の背景として挙げられています)。
再使用で、打ち上げの値段は、いくら下がりましたか?
この記事では、確認できていません。マスクは「ロケットでいちばん高い部分を再使用できる」と述べていますが、具体的な値下がりの率は、この記事の出典には書かれていません。
まとめ
- 2015年1月10日(CRS-5):初のドローン船への挑戦。油圧系統の故障で、墜落と報じられた。
- 2015年4月14日(CRS-6):船の上で転倒。マスクは、原因を、スロットルバルブの反応の遅れと説明。
- 2015年12月21日:ケープカナベラルの着陸ゾーン1に、初の地上着陸に成功(ORBCOMMの衛星11機)。
- 2016年1月17日(Jason-3)、3月4日(SES-9):船への着陸に、さらに失敗(脚のロック不良、高い軌道による燃料不足)。
- 2016年4月8日(CRS-8):ドローン船への初の着陸に成功。
- 2017年3月30日(SES-10):再使用したブースターで、初の打ち上げ。再び、船に着陸。
次の記事:ロケットが、使い回せる時代に近づいたころ、電気自動車のテスラは、「生産地獄」と呼ばれた、もっと難しい時期に入っていきます。
出典(確認日 2026-10-12)
- CBS News「SpaceX pulls off dramatic Falcon 9 launch and landing」(2015年12月21日の初の地上着陸。CRS-5・CRS-6の失敗への言及を含む): https://www.cbsnews.com/news/spacex-pulls-off-dramatic-falcon-9-launch-landing/
- Space.com「SpaceX's Elon Musk Says Rocket Landing Test Ran Out of Hydraulic Fluid」(CRS-5。見出しのみ確認、本文は取得できず): https://www.space.com/28236-spacex-rocket-landing-hydraulic-fluid.html
- Spaceflight Now「Throttle valve blamed for Falcon 9's unsuccessful landing」(2015年4月21日、CRS-6): https://spaceflightnow.com/2015/04/21/throttle-valve-blamed-for-falcon-9s-unsuccessful-landing/
- AP通信(Military Times掲載)「Support leg breaks as SpaceX rocket lands on ocean barge」(2016年1月17日、Jason-3): https://www.militarytimes.com/news/your-military/2016/01/17/support-leg-breaks-as-spacex-rocket-lands-on-ocean-barge/
- Fortune(2016年3月4日、SES-9): https://fortune.com/2016/03/04/spacex-rocket-landing-ship
- Universe Today「SpaceX Falcon 9 Recovered 1st Stage Arrives Back in Port After Historic Upright Landing at Sea」(2016年4月、CRS-8): https://www.universetoday.com/articles/spacex-falcon-9-recovered-1st-stage-arrives-back-in-port-after-upright-landing-at-sea
- CBS News「Satellite operator SES buys used rocket from SpaceX」(2016年8月30日): https://www.cbsnews.com/news/satellite-operator-ses-buys-used-rocket-from-spacex/
- Scientific American「Used SpaceX Rocket Launches Satellite, Then Lands in Historic 1st Reflight」(2017年3月30日、SES-10): https://www.scientificamerican.com/article/used-spacex-rocket-launches-satellite-then-lands-in-historic-1st-reflight/
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