テスラがFSD(監視あり)の安全報告を更新。重大な事故は「約600万マイルに1回」、米国平均の約9倍の長さ

確認日 2026年10月28日 / 読む時間 約7分

目次
  1. 3行まとめ
  2. 前提知識:事故は「件数」ではなく「距離あたり」で比べる
  3. 前提知識:FSD(Supervised)は「監視ありの運転支援」
  4. 何が起きたか
  5. なぜ重要か
  6. 技術・しくみ:「重大な事故」は、どう数えているのか
  7. 技術・しくみ:「米国平均」は、どう作っているのか
  8. 背景:なぜ、このページがあるのか
  9. これまでの流れ
  10. 知っておくと使える、数字を読むときのポイント
  11. つづきの問い
  12. 次に読む
  13. 出典
  14. 確認状況

テスラは2026年10月、FSD(Supervised、監視ありの運転支援)の安全報告のページ(tesla.com/fsd/safety)を更新しました。直近12か月の集計で、FSDを使っているときの重大な事故(エアバッグなどが作動した事故)は、600万6,200マイル(約967万km)に1回でした。テスラが米国の公的データから見積もった米国平均は66万164マイルに1回で、約9倍の長さです。手動で運転するテスラ(衝突防止の機能あり)は203万1,221マイルに1回でした。FSDの累計走行距離は、約167億マイルを超えています。

AI生成のイメージ:夜の高速道路を走る白い車と、車の周りを見るカメラの視野を表す青い扇形(概念図で、実際の車両とは異なります)
図1:イメージ(AI生成)。

3行まとめ

  • テスラは、FSD(Supervised)の安全報告のページを更新しました。直近12か月で、FSDを使っているときの重大な事故は約600万マイル(約967万km)に1回です。
  • テスラが米国の公的データから見積もった米国平均は約66万マイルに1回。FSDは、その約9倍の距離を、重大な事故なしで走っている計算です。軽い事故では約7倍、高速道路以外の道では約6倍としています。
  • FSDの累計走行距離は約167億マイル(2026年10月28日の表示)。2026年2月ごろに報じられた約82億マイルから、約8か月で2倍になりました。

前提知識:事故は「件数」ではなく「距離あたり」で比べる

事故の安全さを比べるとき、いちばん大事なのは、何キロ走るごとに1回、事故が起きるかという物差しです。たとえば、Aの町で事故が100件、Bの町で10件あったとしても、Aの町の車が100倍の距離を走っていれば、1kmあたりの危なさは、むしろAのほうが低くなります。件数だけを見ると、たくさん走る人ほど危なく見えてしまうのです。

そこでテスラは、「事故1回あたり、何マイル走ったか(miles per collision)」で比べています。1マイルは約1.61kmです。この数字は、大きいほど安全という意味になります。600万マイルに1回なら、600万マイル走って、ようやく1回の事故に出会う、ということです。

身近な数字に直してみましょう。1年に1万km走る人を考えます。米国平均の「66万マイル(約106万km)に1回」は、ぼくの計算では、その人が約106年に1回、重大な事故に出会う割合です。FSDの「600万マイル(約967万km)に1回」は、約967年に1回の割合になります。重大な事故は、人間の運転でも、もともと、めったに起きないものだとわかります。

めったに起きないからこそ、安全を示すには、ものすごく長い距離のデータが必要です。10万マイル走って事故が0件でも、人間でも0件のことが多いので、何も言えません。テスラが「12か月で約95億マイル」という大きな母数を出しているのは、このためです。

前提知識:FSD(Supervised)は「監視ありの運転支援」

FSD(Supervised)は、ハンドル、アクセル、ブレーキの操作を車がこなしますが、運転の責任は人にあり、人がずっと見ている必要がある機能です。名前の「Supervised(監視あり)」は、このことを表しています。運転席に人がいない「ロボタクシー」とは、別のものです。違いは、FSDとオートパイロットの違いの記事で整理しています。

つまり、今回の数字は、「機械と人が、2人がかりで運転したときの事故の少なさ」です。機械だけの実力でも、人だけの実力でもありません。この点は、数字を読むときに、ずっと頭に置いておきましょう。

何が起きたか

テスラの公式ページ「Full Self-Driving (Supervised) Vehicle Safety Report」には、2026年10月28日の時点で、次の数字が出ています。集計は、直近12か月の走行距離と事故の数で、テスラは四半期ごとに更新するとしています(中国のデータは含みません)。

重大な事故(エアバッグなどが作動した事故)1回あたりの走行距離

運転のしかた事故1回あたり12か月の走行距離
テスラ、FSD(Supervised)を使用6,006,200マイル約94.8億マイル
テスラ、手動運転(衝突防止の機能あり)2,031,221マイル約361億マイル
テスラ、手動運転(衝突防止の機能なし)845,915マイル約2.0億マイル
米国平均(テスラの見積もり)660,164マイル約3.29兆マイル

軽い事故(エアバッグは開かない事故)1回あたりの走行距離は、FSD使用が1,760,823マイル、手動運転(衝突防止の機能あり)が685,390マイル、手動運転(機能なし)が約28.5万マイル、米国平均が約22.5万マイルです。

ページの見出しでは、米国平均と比べて、重大な事故が9分の1、軽い事故が7分の1、高速道路以外の道での事故が6分の1としています。表の数字から、ぼくが計算すると、重大な事故は 6,006,200 ÷ 660,164 ≒ 9.1倍の距離です。

あわせて、FSDの累計走行距離は167億5,967万マイル(そのうち市街地が66億5,756万マイル)と表示されています(2026年10月28日の表示。カウンターは平均の速さで増え続けます)。

なぜ重要か

自動運転や運転支援の安全は、「すごく安全です」という言葉ではなく、決まった定義で、決まった期間を数えた数字でしか確かめられません。今回のページは、事故の定義、数え方、米国平均の作り方を、方法論(Methodology)として細かく書いています。数字が四半期ごとに更新されるので、同じ物差しで、前より良くなったか悪くなったかを追えるようになりました。

前回(2026年2月ごろ)の報道では、FSD使用時の重大な事故は約530万マイルに1回と伝えられていました(Drive Tesla Canada)。今回の約600万マイルは、それより長くなっています。走る距離が増えても、事故の割合が下がっていることを示す数字です。

技術・しくみ:「重大な事故」は、どう数えているのか

テスラは、米国の規則(49 C.F.R. § 563.5、事故データ記録装置の定義)にそって、事故を2つに分けています。

区分定義目安
重大な事故(major)エアバッグなど、元に戻せない拘束装置が作動した事故けがの危険が大きい強さ
軽い事故(minor)作動はしないが、0.15秒のあいだに速度が時速8km以上変わった事故ぶつかったと言える強さ

「0.15秒で時速8km変わる」は、どれくらいの強さでしょうか。時速8kmは秒速約2.2mです。それが0.15秒で変わるので、加速度は 2.2 ÷ 0.15 ≒ 約15m/秒²、つまり重力の約1.5倍(1.5G)です。急ブレーキでも約1G程度なので、ふつうの運転ではまず起きない、はっきりした衝撃です。

数え方には、もう1つ大事な決まりがあります。事故の5秒前までに、一度でもFSDが動いていたら、「FSD使用中の事故」として数えます。 危ないと思った人がFSDを切ってハンドルを握り、その直後にぶつかった場合も、FSDの事故に入れる、ということです。FSDの数字を、よく見せすぎないための決まりです。

また、テスラはどちらが悪かったか(過失)を判定しません。もらい事故も含めて、すべての事故を数えています。

データは、車から自動で届きます。車がパーキングに入ると、その運転の距離と、FSDを使ったかどうかの記録が送られます。事故を検知すると、すぐに事故の記録が送られます。テスラは、2025年第3四半期だけで、世界(中国を除く)の車から25億件のデータを受け取ったとしています。

技術・しくみ:「米国平均」は、どう作っているのか

テスラ以外の車の事故は、テスラのデータには入りません。そこでテスラは、米国の公的データから、平均を見積もっています。

  • 分子(走った距離): 米国連邦道路庁(FHWA)の、全国の走行距離(2024年分)。
  • 分母(事故の数): 米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)のCISS。少なくとも1台がレッカーで運ばれた、警察が記録した事故の調査です。

なぜCISSなのか。NHTSAには、ほかにも、警察が記録したすべての事故の調査(CRSS)や、死亡事故の記録(FARS)があります。しかし、CRSSは約7割が物の損害だけの軽い事故で、エアバッグが開く事故とは強さが合いません。FARSは死亡事故だけで、範囲が狭すぎます。「レッカーが必要な事故」が、エアバッグが開く事故に近いと考えて、CISSを選んだ、とテスラは説明しています。

テスラ自身も、限界を書いています。警察に届けられない事故は多く、NHTSAの推計では、物の損害だけの事故の60%、けが人のある事故の32%が届けられていません。こうした違いで、米国平均は、実際より高くも低くも出うる、としています。

そのため、テスラは、いちばん信頼できる比べ方は、同じテスラの車どうし(FSD使用と手動運転)だとしています。同じ車、同じデータの集め方で比べられるからです。この比べ方では、FSD使用(600万マイルに1回)は、衝突防止の機能がある手動運転(203万マイルに1回)の、約3倍の長さです。

背景:なぜ、このページがあるのか

テスラは、2025年11月に、FSD(Supervised)の事故データを、方法論つきでくわしく公開する今の形の報告を出しました(TechCrunch、2025年11月14日)。それ以来、四半期ごとに数字を更新しています。

テスラは、FSDを各国で認めてもらうために、こうしたデータを使っています。ページによると、FSD(Supervised)が使える国は、米国、カナダ、メキシコ、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、オランダなど17の国と地域です。ヨーロッパでは、スロバキアやラトビアなど、国ごとに承認が進んでいます。

これまでの流れ

  • 2020年: FSD(当時はベータ版)の提供が始まりました。累計走行距離は、この年から数えています。
  • 2025年11月: FSD(Supervised)の安全報告を、方法論つきの今の形で公開しました。
  • 2026年2月ごろ: 累計約82億マイル、重大な事故は約530万マイルに1回と報じられました(Drive Tesla Canada、2026年2月19日)。
  • 2026年10月23日: 運転席に人がいないロボタクシーの安全報告を公開しました。くわしくはロボタクシーの安全報告の記事で説明しています。
  • 2026年10月28日の時点: FSD(Supervised)の報告は、重大な事故が約600万マイルに1回、累計約167億マイルを示しています。

知っておくと使える、数字を読むときのポイント

  • 「大きいほど安全」の物差し: 「◯マイルに1回」は、数字が大きいほど事故が少ない、という意味です。「◯倍安全」と言うときは、この距離の比です。
  • 比べる相手を確かめる: 「米国平均の9倍」と「同じテスラの手動運転の3倍」は、どちらも同じページの数字です。相手が違えば、倍率も変わります。見出しの倍率だけで判断しないことが大切です。
  • 使う場面の違いに注意: ぼくの考えだけど、FSDは、運転する人が「ここなら任せられる」と思った場面で使われやすいはずです。テスラは高速道路と、それ以外の道を分けて数字を出していますが、天気や時間帯などの違いまでは、そろえきれません。
  • 「監視あり」の数字である: 機械と人の2人がかりの成績です。人が見ていなくてよい、という意味ではありません。

つづきの問い

FSDは、カメラの映像だけで、周りの車や人を見分けています。8台のカメラは、どこに付いていて、何を見ているのでしょうか。

次に読む

出典

確認状況

数字は、テスラの公式ページで確認しました(2026-10-28時点)。集計の対象となる12か月の正確な始まりと終わりの日付は、ページに書かれていません。2026年2月の数字は報道によるものです。倍率と年数の計算は、ぼくの計算です。

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