2008年は、スペースXが4回目の打ち上げで初めて軌道に届いた年であり、同時に、テスラの資金が底をつきかけた年でもありました。12月23日にはNASAがスペースXと大型契約を結び、翌24日、テスラは年末の資金調達をぎりぎりで完了した、と報じられています。

2008年12月24日。クリスマスイブの、午後6時。
イーロン・マスクは、後年、この時刻をはっきりと書いています。「あと2日遅れていたら、給料を払えなくなるところだった」。(本人のSNS投稿を報道が引用したもので、当時の記録で確認したわけではありません。)
2008年のマスクは、ふつうの経営者が1社でも抱えきれない重荷を、2社分、同時に背負っていました。ロケット会社と、電気自動車会社。しかも、世界は、金融危機のただなか。
この記事では、その1年を、日付を追って見ていきます。
前半戦:スペースXの、崖っぷち
2008年の前半は、スペースXにとって、苦しい時間でした。8月2日、ファルコン1の3回目の打ち上げが失敗。3回連続の失敗です(詳しくは前の記事)。
それでも、8月6日、ベンチャーキャピタルのFounders Fundから2,000万ドルを調達したと報じられました。失敗の、わずか4日後です。
そして、9月28日。4回目の打ち上げで、ファルコン1は、はじめて地球周回軌道に届きました。スペースXは、ひとまず、崖っぷちから生還します。
もう1つの会社:テスラ
ところが、同じ2008年、もう1つの会社が、静かに追い込まれていました。電気自動車メーカー、テスラです。
10月15日。報道によると、テスラは次の発表をしました。
- 次の車「Model S(モデルS)」の量産を、延期する。
- コストを減らすため、人員を削減し、海外の拠点を閉じる。
- そして、マスクが、CEO(最高経営責任者)に就任する(会長との兼務)。それまでのCEOは、Ze'ev Drori(ゼエフ・ドロリ)でした。
当時のロサンゼルス・タイムズは、この発表を、世界的な信用収縮(クレジット・クランチ)の影響として報じています。お金を貸してくれる人が、いっせいに消えた時代でした。

11月、資金調達の承認
11月2日。テスラの取締役会は、約4,000万ドルの資金調達を承認しました(テスラ自身の公式発表による)。転換社債という形の資金調達で、主な使い道は、ロードスター(最初の量産車)の製造を加速することだとされました。
ただし、この承認は、「お金が入った」という意味ではありません。承認されたあと、実際に出資してくれる人が現れて、はじめて資金になります。
年末:現金は、約900万ドル
2008年の終わり。テスラの現金は、約900万ドルまで逼迫していたと、のちに報じられています(TechCrunchの2009年の記事)。
自動車の開発や生産には、毎月、大きなお金が出ていきます。900万ドルというのは、会社を動かし続けるには、あまりにも薄い余裕でした。
12月23日:NASAからの知らせ
その少し前、12月23日。NASAが、国際宇宙ステーション(ISS)への物資の輸送を、スペースXに任せる契約を発表しました。
- スペースX:12便、約16億ドル。
- もう1社、オービタル・サイエンシズ:8便、約19億ドル。
スペースXにとって、これは、会社の生死を分ける知らせだったと考えられます。ただし、ここで1つ、気をつけたいことがあります。
16億ドルは、契約の総額です。契約が決まった12月に、その全額が、現金でスペースXに入ったわけではありません。ロケットを何度も飛ばし、荷物を運んでいく、長い期間にわたって支払われていくお金です。

12月24日、午後6時
そして、12月24日。
テスラは、年末最後の資金調達のラウンドを、完了させたと報じられています。マスクは、後年、これを次のように振り返ったとされます(本人のSNS投稿を報道が引用)。
- 資金調達が完了したのは、12月24日の午後6時だった。
- あと2日遅ければ、給料を払えなくなるところだった。
- このとき、PayPalで得た最後の手持ち資金を、テスラに投入した。
ここで、注意が必要です。この12月24日の資金調達の中身(誰が、いくら出したのか)は、当時の記録で確認できていません。 11月に承認された約4,000万ドルの枠と、12月24日に完了したラウンドが、どう関係するのかも、分かっていません。そのため、「12月24日に4,000万ドルが入金された」と、断定はできません。
マスクは、別の場で、2008年を「悪夢の年」と呼んだと報じられています。スペースXは、3回打って、3回とも失敗していた。テスラの資金調達も、崩壊寸前だった。世界は、金融危機の渦中だった。
なぜ、この年が大切なのか
2008年は、「失敗しても、まだ次がある」という状況とは、正反対の年でした。ロケットは3回失敗し、会社の現金は底をつき、世界の景気は冷え込んでいた。そこで、2社とも、倒れずに年を越した。この事実は、のちの2社の歩みを考えるとき、大きな前提になります。ただし、「どう乗り切ったのか」の細部は、公開された資料では、まだ分かっていないことが多いです。
次の記事からは、この危機を越えた2社が、どう動き出していくのかを見ていきます。
よくある質問
2008年に、マスクは2社の資金を、どう分けたのですか?
確認できていません。マスク本人の証言はありますが、2社への配分額の内訳は、資料では確認できていません。
NASAの契約で、スペースXは、助かったのですか?
契約の総額は約16億ドルと報じられていますが、それは長い期間をかけて支払われるお金です。12月の時点で、手元の現金がどれだけ増えたかは、確認できていません。
テスラのCEOは、はじめからマスクだったのですか?
いいえ。2008年10月に、それまでのCEOだったZe'ev Droriに代わって、マスクが就任したと報じられています。
まとめ
- 8月:スペースXは3回目の失敗の4日後、2,000万ドルの調達が報じられた。9月28日に、4回目で成功。
- 10月15日:テスラはModel Sの量産を延期し、人員削減。マスクがCEOに就任。
- 11月2日:テスラの取締役会が、約4,000万ドルの資金調達を承認(公式発表)。
- 年末:テスラの現金は約900万ドルまで逼迫(報道)。
- 12月23日:NASAがスペースXと、12便・約16億ドルの契約(契約総額)。
- 12月24日:テスラが年末の資金調達を完了(本人の後年の証言を報道が引用。内訳は未確認)。
次の記事:危機を越えた2社は、どう動き出したのか。電気自動車Model Sと、宇宙船Dragonへ。
出典(確認日 2026-10-11)
- VentureBeat「Private rocket company SpaceX gets $20M from the Founders Fund」(2008年8月6日): https://venturebeat.com/business/private-rocket-company-spacex-gets-20m-from-the-founders-fund
- Gizmodo「SpaceX Falcon 1 finally gets into orbit, makes history」(2008年9月): https://gizmodo.com/spacex-falcon-1-finally-gets-into-orbit-makes-history-5056064
- Los Angeles Times「Tesla feels credit crunch」(2008年10月15日): https://www.latimes.com/archives/blogs/money-company/story/2008-10-15/tesla-feels-credit-crunch
- Tesla Motors プレスリリース「Tesla Motors receives $40 million financing commitment」(2008年11月2日付とされる): https://ir.tesla.com/press-release/tesla-motors-receives-40-million-financing-commitment
- TechCrunch「Tesla worth a half billion dollars after Daimler investment」(2009年5月19日、2008年末の現金に関する記述): https://techcrunch.com/2009/05/19/tesla-worth-a-half-billion-dollars-after-daimler-investment/
- Universe Today「SpaceX and Orbital Sciences awarded ISS re-supply contract」(2008年12月23日のNASA契約に関する報道): https://www.universetoday.com/articles/spacex-orbital-sciences-awarded-iss-re-supply-contract
- Observer「Elon Musk recalls Tesla's 2008 financial crisis on Twitter」(2021年6月、マスクの投稿を引用): https://observer.com/2021/06/elon-musk-recall-tesla-2008-financial-crisis-twitter/
この記事は、科学技術と企業の歴史の学習を目的としたもので、投資の助言ではありません。事実と筆者の読み解きは、区別して書いています。図はAIで生成したイメージです。