テスラは2016年3月31日にModel 3を発表し、最初の24時間で11万5,000台超の予約を集めました。しかし、2017年第3四半期に納車できたのは222台。ギガファクトリーの電池モジュールの組み立てラインが、最大の制約でした。2018年6月末の1週間で、やっと週5,000台に届いたと報じられています。

予約は、50万台を超えた。それなのに、お客さんの手元に届いた車は、ある四半期に、222台だった。
この記事は、テスラの「その後」の話です。前の記事までで、テスラは、2008年の危機を越え、高級電気セダンのModel Sを世に出しました。次の挑戦は、もっと安い電気自動車を、ものすごい数、作ることです。それが、Model 3でした。
この記事では、2016年から2018年を追います。
2016年3月31日、Model 3の発表
2016年3月31日。マスクは、カリフォルニア州ホーソーンにある、テスラのデザインスタジオで、Model 3を発表しました(AP通信)。
- 予約の金額は、1,000ドル。
- 基本の車種は、3万5,000ドルの車として知られています(APの後年の記事が、「3万5,000ドルの基本車種」と書いています)。マスクは、オプションをつけた、ふつうの販売価格を、約4万2,000ドルと見積もりました。
- 予約は、最初の24時間で、11万5,000台超。翌日の金曜の朝には、18万台に達した、とマスクは話しました。
- 車が手に入るのは、早くても、2017年の終わりとされました。
Model Sは、少量しか作らない高級車でした。Model 3は、ふつうの人が買える値段で、何十万台も作る車です。ここから、テスラの本当の難しさが始まります。
2017年7月28日、最初の30台と、「生産地獄」
2017年7月28日。カリフォルニア州フリーモントの工場で、テスラは、最初の30台のModel 3を、従業員の購入者に引き渡しました。
この日、マスクは、通信社の配信記事によると、次のように語りました。
「生産地獄へ、ようこそ」。「少なくとも6か月は、そこにいる」。
(原文:"Welcome to production hell" / "That is where we are for at least six months." Gulf Times掲載の通信社の配信記事)
同じ記事によると、マスクが示した見通しは、次のとおりです。
- 8月に、100台。9月に、1,500台以上。
- 今年中に、週5,000台。2018年には、週1万台。
- 予約は、50万台超。
予約は、あふれるほどある。けれども、作る側の力が、そこまで届かない。
2017年第3四半期、納車は222台
そして、現実の数字が出ます。
テスラの株主向けの書簡(2017年11月)によると、2017年第3四半期に、Model 3を納車できたのは、222台でした。同じ四半期の、テスラ全体の納車は、2万6,137台です。目標は、約1,500台だったと報じられています(TechCrunch)。
なぜ、足りなかったのか。書簡が挙げた、最大の制約は、ネバダ州のギガファクトリー1にある、電池モジュールの組み立てラインでした。
- 電池の「セル」を、まとめて「モジュール」にする作業です。Model 3の電池パックには、モジュールが4つ入ります。
- このラインは、4つのゾーンでできていました。もとは、供給会社が作った装置でしたが、テスラが、最初の2つのゾーンを引き取って、設計し直すことになりました。
- 書簡は、Model 3の工程が、ほかの車より、はるかに自動化されていることも、立ち上げを難しくしている、と説明しています。

テスラは、週5,000台の目標を、2018年第1四半期の終わりごろまで、延ばしました。書簡は、生産が、週ごとに、「大きなジャンプ」で増えるかもしれない、とも述べています。
決算の説明会で、マスクは、「いちばん大きな問題がある場所に、自分を動かしている」という趣旨を語りました(TechCrunch)。
2018年6月末、テントの下で
その後の約半年を、2018年の、半ばまで飛びます。
2018年7月1日のAP通信は、テスラが、6月末の1週間で、Model 3を5,000台作ったと、マスクが発表したと報じています。マスクは、社員にメールを送り、「やった!」「ぼくらは、いま、本物の自動車会社になったと思う」という趣旨を書きました(Electrekが報じ、テスラが本物と確認したと、APは書いています)。
この達成を支えたものとして、APは、次の点を挙げています。
- 追加の組み立てラインとして、フリーモントの工場の敷地に、大きなテントを張った。
- マスクは、工場で、多くの夜を過ごした。
- マスクは、投資家に、自動化に頼りすぎたと述べ、人を増やす必要があった。
同じ週の、Model SとModel Xの生産は、合わせて約2,000台。全体では、週7,000台と、記録でした。

「予約が、あふれる」ことと、「ふつうの値段で、たくさん作る」ことは、まったく別の難しさです。ここまで見てきた、ロケットの着陸の失敗と、同じように、原因を一つずつ見つけて、直していく時間が、ここでも流れていたように見えます。ただし、テスラの社内で、実際にどう進んだのかは、確認していません。
「やった」のあとにも、残っていたこと
APの記事は、祝う声ばかりではなかったことも、書いています。
- 分析者は、一度達成しただけでは足りず、品質を保って続けられるかが問われる、と述べています。
- このとき、テスラが売っていたのは、4万9,000ドルから7万ドル超の車種で、3万5,000ドルの基本車種ではありませんでした。予約は、4月ごろで約45万台あったと、APは書いています。
つまり、週5,000台は、ひとつの山でした。でも、ふつうの人が買える値段のModel 3までは、まだ、もう少し道がありました。
よくある質問
「生産地獄」は、マスクが最初に言ったのですか?
2017年7月28日の引き渡しのイベントで、マスクがこの言葉を使ったと、通信社の配信記事が伝えています。それより前に使ったかどうかは、この記事では確認していません。言い回しは、報道によって少しちがいます。
222台は、生産台数ですか、納車台数ですか?
テスラの株主向けの書簡で確認できたのは、納車が222台という数字です。生産台数は、書簡には、書かれていません(報道では、260台という数字を見かけますが、この記事の出典では確認できていません)。
週5,000台は、そのあとも続きましたか?
この記事では、確認していません。APは、一度の達成ではなく、続けられるかが問われる、という分析者の見方を伝えています。
まとめ
- 2016年3月31日:Model 3を発表。予約金は1,000ドル。最初の24時間で、11万5,000台超の予約(AP)。
- 2017年7月28日:最初の30台を従業員に引き渡し。マスクは、「生産地獄へ、ようこそ。少なくとも6か月」と発言。
- 2017年第3四半期:納車は222台(目標は約1,500台)。最大の制約は、ギガファクトリー1の電池モジュールの組み立てライン(テスラの書簡)。
- 2018年6月末の1週間:週5,000台に到達(AP)。テントの追加ライン、人手の増員が支えた。
- 達成のあとも、3万5,000ドルの基本車種は、まだ出ていなかった(AP)。
歴史編は、ここでいったん一区切りです。次は、第1部の続きとして、「ロケットは、本当に高いのか?」を、第一原理で分解していきます(準備中)。
出典(確認日 2026-10-13)
- AP通信(Vnews掲載)「Orders for lower-priced Tesla hit 198,000」(2016年4月2日、Model 3の発表): https://vnews.com/2016/04/02/news-business-orders-for-lower-priced-tesla-hit-198-000-1293930/
- Gulf Times(通信社配信)「Tesla begins to deliver its Model 3 electric cars for the masses」(2017年7月、最初の30台の引き渡し): https://www.gulf-times.com/story/558289/tesla-begins-to-deliver-its-model-3-electric-cars-for-the-masses/amp
- Tesla 株主向けの書簡(2017年第3四半期、SEC提出の資料): https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/0001318605/000156459017020822/tsla-ex991_6.htm
- TechCrunch「Tesla predicts production rate of 5K Model 3 cars per week by late Q1 2018」(2017年11月1日): https://techcrunch.com/2017/11/01/tesla-predicts-production-rate-of-5k-model-3-cars-per-week-by-late-q1-2018
- AP通信(HeraldNet掲載)「CEO Musk: Tesla hits weekly goal of making 5,000 Models 3s」(2018年7月1日): https://www.heraldnet.com/?p=614326
この記事は、科学技術と企業の歴史の学習を目的としたもので、投資の助言ではありません。事実と筆者の読み解きは、区別して書いています。図はAIで生成したイメージです。