モーターが作った回転は、1段の減速ギア(Model 3は9.03:1)で、回転を約9分の1に落とし、回す力(トルク)を約9倍に増やします。そのあと、差動装置が、カーブで左右のタイヤが違う速さで回れるようにして、タイヤに伝えます。

前回は、電池からモーターまでの、電気の流れを見ました。今回は、モーターが作った回転が、どうやってタイヤまで届くのか、力の流れをたどります。
結論:モーター → 減速ギア → 差動装置 → タイヤ
力の流れは、3つの部品で言えます。
- モーター:電気から、回転を作る。
- 減速ギア:回転を落として、回す力を増やす。
- 差動装置(ディファレンシャル):左右のタイヤが、違う速さで回れるようにする。
米国エネルギー省のAFDCは、EVの変速機を「モーターの機械的な動力を、車輪に伝えるもの」と説明しています。
1. 減速ギア:回転を落として、力を増やす
テスラModel 3のマニュアル(シンガポール版)に、こう書かれています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| トランスミッション | 1段の固定ギア(Single speed fixed gear) |
| ギアの比 | 9.03:1 |
ギアの比 9.03:1 は、モーターが9.03回まわるあいだに、タイヤが1回まわる、という意味です。
回転と力は、どう変わるか
エンジニアリング誌のGears Magazineは、こう説明しています。総ギア比は、各段のギア比をかけ合わせたもの。そして、動力源のトルクに総ギア比をかけると、車輪のトルクになる。
トルクは、「回す力」のことです。損失を無視すれば、ギア比をRとして、次のようになります(この式は、一般的な物理の関係です)。
- タイヤの回転 = モーターの回転 ÷ R
- タイヤのトルク = モーターのトルク × R
計算例(筆者が作った例です。実際の車の数字ではありません):
| モーター | タイヤ(R = 9.03) | |
|---|---|---|
| 回転数 | 9,030回転/分 | 1,000回転/分 |
| トルク | 100 Nm | 約903 Nm |
回転が約9分の1になる代わりに、回す力が約9倍になります。

なぜ、ギアが1段で足りるのか
ガソリン車は、何段ものギアを切り替えます。エンジンが力を出せる回転の範囲が、せまいからです(一般的な説明です)。
EVのモーターは、止まっている状態から力を出せます。Gears Magazineは、Chevy Bolt EV(1段のギア)の例で、モーターのトルクは、停止から約6,000回転/分まで、ほぼ一定で、その後にだんだん下がる、と説明しています。また、1段のギアは、比が変わらないので、車輪のトルクは、モーターのトルクに、そのまま比例します。
つまり、モーターの力の出方が広いので、多段の変速が、いらないのです(これは、Gears Magazineの説明をもとにした、一般的な理由です。Model 3の特性の数字ではありません)。
一方で、1段のギアは、比が決まっているので、モーターの回転数の上限が、最高速を決めます。ポルシェのTaycanなど、一部のEVには、2段の変速機を使うものもあります(この点は、この記事では、一次資料を確認していません)。
2. 差動装置:カーブで、左右のタイヤを、違う速さで回す
車がカーブを曲がるとき、外側のタイヤは、内側のタイヤより、長い距離を進みます。同じ時間で、より長い距離を進むには、外側のタイヤのほうが、速く回らなければなりません。
ブリタニカは、差動装置(ディファレンシャル)を、こう説明しています。エンジン(ここではモーター)の動力を、左右の駆動輪に伝え、力を等しく分けながら、違う長さの道のりを進めるようにする歯車の配置。直線では、左右が同じ速さで回り、カーブでは、外側のタイヤが、内側より速く回る。
もし差動装置がなく、左右が固定されていたら、カーブで、片方のタイヤが、引きずられることになります(これは、一般的な説明です)。

なお、Model 3の差動装置の、細かい構造(歯車の種類など)は、この記事では、確認できていません。
3. 後輪駆動と全輪駆動
Model 3のマニュアルで確認できるのは、次のことです。
- 後ろのモーター:永久磁石同期モーター。
- 前のモーター(AWDの車):誘導モーター。
つまり、全輪駆動(AWD)の車は、前と後ろに、モーターがあります。後輪駆動(RWD)の車は、後ろのモーターだけ、と考えるのが自然ですが、この記事では、グレードごとの構成までは、確認していません。
また、AWDで、前後に力をどう配分するのかも、確認できていません。
4. ブレーキのとき:力が、逆向きに流れる
ブレーキのときは、力の流れが、逆になります。タイヤの回転が、減速ギアを通って、モーターを回し、モーターが発電機になるのです。つくられた電気は、インバーターを通って、電池に戻ります(前回の記事)。
テスラのマニュアルは、この回生ブレーキが、アクセルペダルで操作されると書いています。ペダルを戻すと、回生ブレーキがかかる、という動きです。
減速ギアが、モーターとタイヤを、直接つないでいるので、ブレーキのとき、タイヤの回転が、そのままモーターに伝わるように見えます。ガソリン車のように、クラッチやトルクコンバーターを挟まないので、この逆向きの流れは、つくりやすいのだと思います。ただし、これは、確認した事実ではなく、私の推測です。
よくある質問
Model 3のギア比9.03:1は、すべての車で同じですか?
確認できていません。この記事は、確認したマニュアル(シンガポール版)の数字です。テスラは、年式・グレード・地域で、構成を変えることがあります。
EVのギアは、本当に1段だけですか?
Model 3は、マニュアルで、1段の固定ギアと確認できます。ほかの車には、2段のものもあると言われますが、この記事では確認していません。
差動装置は、EVにもあるのですか?
差動装置は、左右の車輪が違う距離を進むための、一般的な機構です(ブリタニカ)。Model 3の差動装置の種類は、この記事では確認していません。
減速ギアで、損失は出ますか?
この記事の計算例は、損失を無視しています。実際の損失の大きさは、確認していません。
まとめ
- 力の流れは、モーター → 減速ギア → 差動装置 → タイヤ。ブレーキのときは、逆向きになる。
- Model 3は、1段の固定ギア、比は9.03:1(マニュアル、シンガポール版)。
- ギア比Rで、回転は1/R、トルクはR倍(損失を無視した、一般的な関係。Gears Magazineの説明と同じ考え方)。
- 差動装置は、カーブで、外側のタイヤが速く回れるようにする(ブリタニカ)。
- Model 3のモーター:後ろ=永久磁石同期、前(AWD)=誘導(マニュアル)。
- 回生ブレーキは、アクセルペダルで操作される(マニュアル)。
- 差動装置の細かい種類、前後の力の配分は、未確認。
次の記事:EVの大きな課題、「熱の流れ:冷やす、温める」を、順番に見ていきます(準備中)。
出典(確認日 2026-10-13)
- Tesla「Model 3 Owner's Manual: Subsystems」(シンガポール版): https://www.tesla.com/ownersmanual/model3/en_sg/GUID-E414862C-CFA1-4A0B-9548-BE21C32CAA58.html
- Britannica「differential gear」: https://www.britannica.com/technology/differential-gear
- Gears Magazine「The Teacher's Corner」(電気モーターのトルクと総ギア比、2025年8/9月号): https://gearsmagazine.com/magazine/electric-motor-torque-total-gear-ratio/
- U.S. Department of Energy, Alternative Fuels Data Center「How Do All-Electric Cars Work?」: https://afdc.energy.gov/vehicles/how-do-all-electric-cars-work
この記事は、科学技術の学習を目的としたもので、投資の助言ではありません。事実と筆者の読み解きは、区別して書いています。図はAIで生成したイメージです。