電気自動車のギアは、なぜ1段だけ?モーターからタイヤまでの「力の流れ」を、図でやさしく解説

確認日 2026年10月13日 / 読む時間 約9分

目次
  1. 結論:モーター → 減速ギア → 差動装置 → タイヤ
  2. 1. 減速ギア:回転を落として、力を増やす
  3. 2. 差動装置:カーブで、左右のタイヤを、違う速さで回す
  4. 3. 後輪駆動と全輪駆動
  5. 4. ブレーキのとき:力が、逆向きに流れる
  6. よくある質問
  7. まとめ
  8. 出典(確認日 2026-10-13)

モーターが作った回転は、1段の減速ギア(Model 3は9.03:1)で、回転を約9分の1に落とし、回す力(トルク)を約9倍に増やします。そのあと、差動装置が、カーブで左右のタイヤが違う速さで回れるようにして、タイヤに伝えます。

EVの力の流れ。モーター→減速ギア(1段)→差動装置→左右のタイヤ。ブレーキのときは、タイヤからモーターへ、逆向きに力が流れる
図1:EVの、力の流れ(AI生成のイメージ。テスラのマニュアルなどによる)。

前回は、電池からモーターまでの、電気の流れを見ました。今回は、モーターが作った回転が、どうやってタイヤまで届くのか、力の流れをたどります。

結論:モーター → 減速ギア → 差動装置 → タイヤ

力の流れは、3つの部品で言えます。

  1. モーター:電気から、回転を作る。
  2. 減速ギア:回転を落として、回す力を増やす。
  3. 差動装置(ディファレンシャル):左右のタイヤが、違う速さで回れるようにする。

米国エネルギー省のAFDCは、EVの変速機を「モーターの機械的な動力を、車輪に伝えるもの」と説明しています。

1. 減速ギア:回転を落として、力を増やす

テスラModel 3のマニュアル(シンガポール版)に、こう書かれています。

項目内容
トランスミッション1段の固定ギア(Single speed fixed gear)
ギアの比9.03:1

ギアの比 9.03:1 は、モーターが9.03回まわるあいだに、タイヤが1回まわる、という意味です。

回転と力は、どう変わるか

エンジニアリング誌のGears Magazineは、こう説明しています。総ギア比は、各段のギア比をかけ合わせたもの。そして、動力源のトルクに総ギア比をかけると、車輪のトルクになる。

トルクは、「回す力」のことです。損失を無視すれば、ギア比をRとして、次のようになります(この式は、一般的な物理の関係です)。

  • タイヤの回転 = モーターの回転 ÷ R
  • タイヤのトルク = モーターのトルク × R

計算例(筆者が作った例です。実際の車の数字ではありません):

モータータイヤ(R = 9.03)
回転数9,030回転/分1,000回転/分
トルク100 Nm約903 Nm

回転が約9分の1になる代わりに、回す力が約9倍になります。

減速ギアのはたらき。ギア比9.03:1のとき、モーターが9,030回転/分なら、タイヤは1,000回転/分。モーターのトルク100ニュートンメートルは、タイヤで約903ニュートンメートルになる(損失を無視した計算例)
図2:減速ギアで、回転とトルクが変わる(AI生成のイメージ。数字は筆者の計算例)。

なぜ、ギアが1段で足りるのか

ガソリン車は、何段ものギアを切り替えます。エンジンが力を出せる回転の範囲が、せまいからです(一般的な説明です)。

EVのモーターは、止まっている状態から力を出せます。Gears Magazineは、Chevy Bolt EV(1段のギア)の例で、モーターのトルクは、停止から約6,000回転/分まで、ほぼ一定で、その後にだんだん下がる、と説明しています。また、1段のギアは、比が変わらないので、車輪のトルクは、モーターのトルクに、そのまま比例します。

つまり、モーターの力の出方が広いので、多段の変速が、いらないのです(これは、Gears Magazineの説明をもとにした、一般的な理由です。Model 3の特性の数字ではありません)。

一方で、1段のギアは、比が決まっているので、モーターの回転数の上限が、最高速を決めます。ポルシェのTaycanなど、一部のEVには、2段の変速機を使うものもあります(この点は、この記事では、一次資料を確認していません)。

2. 差動装置:カーブで、左右のタイヤを、違う速さで回す

車がカーブを曲がるとき、外側のタイヤは、内側のタイヤより、長い距離を進みます。同じ時間で、より長い距離を進むには、外側のタイヤのほうが、速く回らなければなりません。

ブリタニカは、差動装置(ディファレンシャル)を、こう説明しています。エンジン(ここではモーター)の動力を、左右の駆動輪に伝え、力を等しく分けながら、違う長さの道のりを進めるようにする歯車の配置。直線では、左右が同じ速さで回り、カーブでは、外側のタイヤが、内側より速く回る。

もし差動装置がなく、左右が固定されていたら、カーブで、片方のタイヤが、引きずられることになります(これは、一般的な説明です)。

差動装置のはたらき。直線では、左右のタイヤが同じ速さで回る。カーブでは、外側のタイヤは長い距離を進むので、内側より速く回る
図3:差動装置のはたらき(AI生成のイメージ。ブリタニカの説明による)。

なお、Model 3の差動装置の、細かい構造(歯車の種類など)は、この記事では、確認できていません。

3. 後輪駆動と全輪駆動

Model 3のマニュアルで確認できるのは、次のことです。

  • 後ろのモーター:永久磁石同期モーター。
  • 前のモーター(AWDの車):誘導モーター。

つまり、全輪駆動(AWD)の車は、前と後ろに、モーターがあります。後輪駆動(RWD)の車は、後ろのモーターだけ、と考えるのが自然ですが、この記事では、グレードごとの構成までは、確認していません。

また、AWDで、前後に力をどう配分するのかも、確認できていません。

4. ブレーキのとき:力が、逆向きに流れる

ブレーキのときは、力の流れが、逆になります。タイヤの回転が、減速ギアを通って、モーターを回し、モーターが発電機になるのです。つくられた電気は、インバーターを通って、電池に戻ります(前回の記事)。

テスラのマニュアルは、この回生ブレーキが、アクセルペダルで操作されると書いています。ペダルを戻すと、回生ブレーキがかかる、という動きです。

筆者の読み解き(確認した事実ではありません)

減速ギアが、モーターとタイヤを、直接つないでいるので、ブレーキのとき、タイヤの回転が、そのままモーターに伝わるように見えます。ガソリン車のように、クラッチやトルクコンバーターを挟まないので、この逆向きの流れは、つくりやすいのだと思います。ただし、これは、確認した事実ではなく、私の推測です。

よくある質問

Model 3のギア比9.03:1は、すべての車で同じですか?

確認できていません。この記事は、確認したマニュアル(シンガポール版)の数字です。テスラは、年式・グレード・地域で、構成を変えることがあります。

EVのギアは、本当に1段だけですか?

Model 3は、マニュアルで、1段の固定ギアと確認できます。ほかの車には、2段のものもあると言われますが、この記事では確認していません。

差動装置は、EVにもあるのですか?

差動装置は、左右の車輪が違う距離を進むための、一般的な機構です(ブリタニカ)。Model 3の差動装置の種類は、この記事では確認していません。

減速ギアで、損失は出ますか?

この記事の計算例は、損失を無視しています。実際の損失の大きさは、確認していません。

まとめ

  • 力の流れは、モーター → 減速ギア → 差動装置 → タイヤ。ブレーキのときは、逆向きになる。
  • Model 3は、1段の固定ギア、比は9.03:1(マニュアル、シンガポール版)。
  • ギア比Rで、回転は1/R、トルクはR倍(損失を無視した、一般的な関係。Gears Magazineの説明と同じ考え方)。
  • 差動装置は、カーブで、外側のタイヤが速く回れるようにする(ブリタニカ)。
  • Model 3のモーター:後ろ=永久磁石同期、前(AWD)=誘導(マニュアル)。
  • 回生ブレーキは、アクセルペダルで操作される(マニュアル)。
  • 差動装置の細かい種類、前後の力の配分は、未確認。

次の記事:EVの大きな課題、「熱の流れ:冷やす、温める」を、順番に見ていきます(準備中)。

出典(確認日 2026-10-13)

この記事は、科学技術の学習を目的としたもので、投資の助言ではありません。事実と筆者の読み解きは、区別して書いています。図はAIで生成したイメージです。