EVの電池は、冷えすぎても、熱くなりすぎても、本来の力を出せません。そのため、冷却液を循環させて、電池やモーターを冷やし、寒いときは温めます。米国エネルギー省のページによると、寒い日にヒーターを使うと、EVの航続距離は最大41%下がることがあります。

前回までで、電気の流れと力の流れを見ました。今回は、第3の流れ、熱の流れです。
ガソリン車は、エンジンが出す大量の熱を、車内の暖房に使えます。EVは、そうはいきません。熱を、どう冷やし、どう温めるかが、EVの大きな課題になります。
結論:電池は、冷やすだけでなく、温めることも必要
EVの熱の話は、2つに分かれます。
- 冷やす:電池、モーター、インバーターは、動くと熱を出します。冷却液を循環させて、適温に保ちます。
- 温める:電池は、冷えすぎると、力を出せません。寒いときは、電池とキャビン(車内)を温めます。
米国エネルギー省のAFDCは、EVの「熱システム」を、モーターやパワーエレクトロニクスなどを、適切な温度の範囲に保つもの、と説明しています。
1. 冷やす:冷却液(クーラント)で、熱を運ぶ
テスラModel 3のマニュアル(シンガポール版)で、確認できることは、次のとおりです。
| 部品 | 冷却 |
|---|---|
| 高電圧電池 | 液冷 |
| 後ろのモーター | 液冷 |
| 前のモーター(AWDの車) | 液冷 |
どの部品も、液体の冷却液を通して、熱を運び出す方式です。
なぜ、冷やすのか
電池の温度について、ラフバラ大学の論文(Energies、2022年)は、リチウムイオン電池は、15〜35℃で使うと、劣化が最小になると、ほかの研究を引用しています。熱くなりすぎると、電池が傷みやすくなります。
2. 温める:寒いと、何が起きるのか
意外かもしれませんが、EVでは、温めることも、とても大事です。
電池が冷えると
テスラのマニュアルの「Cold Weather Best Practices」には、こう書かれています。
- 電池が冷えていると、蓄えたエネルギーの一部が、使えなくなることがある。画面には、青い雪の結晶のアイコンが出る。
- このとき、回生ブレーキ、加速、充電の速さが、制限されることがある。電池が十分に温まると、アイコンは消える。
- 回生ブレーキは、電池が冷えていると、制限される。走り続けて電池が温まると、回生の力が増える。

航続距離は、どれだけ下がるのか
米国エネルギー省のFuelEconomy.govは、2019年のAAAの調査にもとづく推定を、載せています。
| 条件 | 数字 |
|---|---|
| ヒーターを使うとき | 航続距離が、最大41%下がることがある |
| ヒーターを使わないとき(華氏20度、75度と比べて) | 燃費は8%低く、航続距離は約12%低い |
さらに、同じページは、余分に使うエネルギーの約3分の2が、キャビンの暖房に使われると書いています。
つまり、寒い日の航続距離の低下は、電池の性能が下がることより、車内を温めることの影響が大きい、と読めます(これはページの数字をもとにした、私の読み取りです)。
寒い日の対策(公式の説明)
テスラのマニュアルと、FuelEconomy.govは、同じような対策を勧めています。
- 走る前に、車と電池を温める:Schedule(出発時刻の設定)や、アプリのClimateで、キャビンを温めると、必要に応じて高電圧電池も温まる。充電器につないだまま行うと、電池の電気を使わずにすむ。
- シートヒーターを使う:キャビンのヒーターより、エネルギーが少なくてすむ。
- 充電のときは、ナビで充電場所へ向かう:Model 3は、電池を予熱して、到着時に最適な温度にする。到着の30〜45分前から使うことを、テスラは勧めている。
3. 熱を、どう作るのか:ヒートポンプ
EVの暖房は、ガソリン車のように、エンジンの捨てる熱が使えません。そこで、使われるのが、ヒートポンプです。
ヒートポンプは、熱を作るのではなく、熱を運ぶ機械です。エアコンの、冷たくするしくみを、逆向きに使って、外の空気や、部品の熱を、車内や電池へ運びます(これは一般的な説明です)。
テスラは、ヒートポンプを搭載した車と、そうでない車があります。テスラのマニュアルは、「ヒートポンプがある車かどうかは、画面の Controls > Software > Additional Vehicle Information で確認できる」と書いています。また、ヒートポンプ搭載車は、寒い日のSupercharger充電中に、無臭の蒸気が、前方から出ることがあると説明しています(正常です)。
4. オクトバルブ:冷却液の行き先を、1つのバルブで切り替える
テスラのModel Yでは、オクトバルブ(Octovalve)と呼ばれるバルブが、熱管理の中心にあります。
ラフバラ大学の論文は、テスラの特許をもとに、こう説明しています。
- 1つのヒートポンプが、キャビンと冷却液の両方に作用し、両者をつなぐ。
- 8つのポートを持つ回転バルブで、冷却液を、5つの異なるループに流せる(特許の図では4つのループが示されている)。
- 熱は、キャビン、パワートレイン、外気の間を、行き来できる。
論文は、このしくみを、シミュレーションで、ふつうのEVの廃熱回収と比べています。その要旨は、暖機中の消費エネルギーと電池の負荷を、大きく減らせる。ただし、暖機にかかる時間は、長くなるというものです。

ただし、注意があります。
- 論文が引用している、量産品のCTスキャンは、Sandy Munro氏(第三者)が公開したものです。それによると、量産品のバルブは、状態が4つしかなく、特許の状態数とは合いません。「特許と量産品は、動き方がおおむね同じ」とも、書かれています。
- テスラが、オクトバルブを、公式に説明した資料は、この記事では確認できていません。
- 「航続距離が10%延びた」という報道がありますが、原本を確認できていないので、書きません。
論文によると、EVは「捨てる熱が少ない」ので、熱を無駄にせず、うまく集めて使うことが、効いてくるようです。オクトバルブは、そのために、行き先を、細かく切り替える装置に見えます。ただし、これは論文と特許の説明をもとにした、私の理解で、テスラの公式な説明ではありません。
よくある質問
EVは、寒いと、本当に、航続距離が下がるのですか?
米国エネルギー省のページによると、下がります。ヒーターを使うと最大41%、ヒーターを使わなくても、約12%です(2019年のAAAの調査にもとづく推定)。車種や条件で、変わります。
回生ブレーキが、寒いと効きにくいのは、なぜですか?
テスラのマニュアルは、電池が冷えているとき、回生ブレーキが制限されることがある、と書いています。理由の詳しい説明は、確認できていません。
Model 3にも、オクトバルブはありますか?
確認できていません。この記事の論文は、Model Yについて書いています。
急速充電は、寒いと、何分遅くなりますか?
具体的な時間は、確認できていません。テスラは、ナビで充電場所へ向かうと、電池を予熱して、充電時間が短くなる、と説明しています。
まとめ
- EVの熱の話は、冷やすと温めるの2つ。電池、モーター、インバーターは、液冷(Model 3のマニュアル)。
- 電池は、15〜35℃で使うと、劣化が最小になる(論文が、他の研究を引用)。
- 電池が冷えると、蓄えたエネルギーの一部が使えず、回生ブレーキ、加速、充電の速さが制限されることがある(テスラのマニュアル)。
- ヒーターを使うと、航続距離は最大41%、使わなくても約12%下がる(FuelEconomy.gov、2019年のAAAの調査にもとづく推定)。余分に使うエネルギーの約3分の2は、キャビンの暖房。
- ヒートポンプは、熱を作るのでなく、運ぶ機械。ヒートポンプのある車とない車がある(マニュアル)。
- オクトバルブ(Model Y):8つのポートの回転バルブで、冷却液を5つのループに流せる(特許、論文による)。公式の説明は、未確認。
次の記事:EVの目と頭脳、「情報の流れ:カメラ→コンピューター」を、順番に見ていきます(準備中)。
出典(確認日 2026-10-14)
- Tesla「Model 3 Owner's Manual: Cold Weather Best Practices」(シンガポール版): https://www.tesla.com/ownersmanual/model3/en_sg/GUID-F907200E-A619-4A95-A0CF-94E0D03BEBEF.html
- Tesla「Model 3 Owner's Manual: Subsystems」(シンガポール版): https://www.tesla.com/ownersmanual/model3/en_sg/GUID-E414862C-CFA1-4A0B-9548-BE21C32CAA58.html
- FuelEconomy.gov(米国エネルギー省・環境保護庁)「Fuel Economy in Cold Weather」: https://fueleconomy.gov/FEG/coldweather.shtml
- U.S. Department of Energy, Alternative Fuels Data Center「How Do All-Electric Cars Work?」: https://afdc.energy.gov/vehicles/how-do-all-electric-cars-work
- Alex Wray, Kambiz Ebrahimi(ラフバラ大学)「Octovalve Thermal Management Control for Electric Vehicle」(Energies 15(17), 6118、2022年8月23日): https://doi.org/10.3390/en15176118
この記事は、科学技術の学習を目的としたもので、投資の助言ではありません。事実と筆者の読み解きは、区別して書いています。図はAIで生成したイメージです。