電気自動車は、なぜ「冷やす」「温める」が大事?熱の流れとヒートポンプを、図でやさしく解説

確認日 2026年10月14日 / 読む時間 約10分

目次
  1. 結論:電池は、冷やすだけでなく、温めることも必要
  2. 1. 冷やす:冷却液(クーラント)で、熱を運ぶ
  3. 2. 温める:寒いと、何が起きるのか
  4. 3. 熱を、どう作るのか:ヒートポンプ
  5. 4. オクトバルブ:冷却液の行き先を、1つのバルブで切り替える
  6. よくある質問
  7. まとめ
  8. 出典(確認日 2026-10-14)

EVの電池は、冷えすぎても、熱くなりすぎても、本来の力を出せません。そのため、冷却液を循環させて、電池やモーターを冷やし、寒いときは温めます。米国エネルギー省のページによると、寒い日にヒーターを使うと、EVの航続距離は最大41%下がることがあります。

EVの熱の流れ。電池、モーター、インバーターは冷却液で冷やされ、寒いときは、ヒートポンプなどで温められる。キャビン(車内)の暖房にも熱が使われる
図1:EVの、熱の流れ(AI生成のイメージ。テスラのマニュアルなどによる)。

前回までで、電気の流れと力の流れを見ました。今回は、第3の流れ、熱の流れです。

ガソリン車は、エンジンが出す大量の熱を、車内の暖房に使えます。EVは、そうはいきません。熱を、どう冷やし、どう温めるかが、EVの大きな課題になります。

結論:電池は、冷やすだけでなく、温めることも必要

EVの熱の話は、2つに分かれます。

  1. 冷やす:電池、モーター、インバーターは、動くと熱を出します。冷却液を循環させて、適温に保ちます。
  2. 温める:電池は、冷えすぎると、力を出せません。寒いときは、電池とキャビン(車内)を温めます。

米国エネルギー省のAFDCは、EVの「熱システム」を、モーターやパワーエレクトロニクスなどを、適切な温度の範囲に保つもの、と説明しています。

1. 冷やす:冷却液(クーラント)で、熱を運ぶ

テスラModel 3のマニュアル(シンガポール版)で、確認できることは、次のとおりです。

部品冷却
高電圧電池液冷
後ろのモーター液冷
前のモーター(AWDの車)液冷

どの部品も、液体の冷却液を通して、熱を運び出す方式です。

なぜ、冷やすのか

電池の温度について、ラフバラ大学の論文(Energies、2022年)は、リチウムイオン電池は、15〜35℃で使うと、劣化が最小になると、ほかの研究を引用しています。熱くなりすぎると、電池が傷みやすくなります。

2. 温める:寒いと、何が起きるのか

意外かもしれませんが、EVでは、温めることも、とても大事です。

電池が冷えると

テスラのマニュアルの「Cold Weather Best Practices」には、こう書かれています。

  • 電池が冷えていると、蓄えたエネルギーの一部が、使えなくなることがある。画面には、青い雪の結晶のアイコンが出る。
  • このとき、回生ブレーキ、加速、充電の速さが、制限されることがある。電池が十分に温まると、アイコンは消える。
  • 回生ブレーキは、電池が冷えていると、制限される。走り続けて電池が温まると、回生の力が増える。
寒いときのEV。電池が冷えると、蓄えたエネルギーの一部が使えず、回生ブレーキ、加速、充電の速さが制限されることがある。青い雪の結晶のアイコンが出る
図2:電池が冷えたときに起きること(AI生成のイメージ。テスラのマニュアルによる)。

航続距離は、どれだけ下がるのか

米国エネルギー省のFuelEconomy.govは、2019年のAAAの調査にもとづく推定を、載せています。

条件数字
ヒーターを使うとき航続距離が、最大41%下がることがある
ヒーターを使わないとき(華氏20度、75度と比べて)燃費は8%低く、航続距離は約12%低い

さらに、同じページは、余分に使うエネルギーの約3分の2が、キャビンの暖房に使われると書いています。

つまり、寒い日の航続距離の低下は、電池の性能が下がることより、車内を温めることの影響が大きい、と読めます(これはページの数字をもとにした、私の読み取りです)。

寒い日の対策(公式の説明)

テスラのマニュアルと、FuelEconomy.govは、同じような対策を勧めています。

  • 走る前に、車と電池を温める:Schedule(出発時刻の設定)や、アプリのClimateで、キャビンを温めると、必要に応じて高電圧電池も温まる。充電器につないだまま行うと、電池の電気を使わずにすむ。
  • シートヒーターを使う:キャビンのヒーターより、エネルギーが少なくてすむ。
  • 充電のときは、ナビで充電場所へ向かう:Model 3は、電池を予熱して、到着時に最適な温度にする。到着の30〜45分前から使うことを、テスラは勧めている。

3. 熱を、どう作るのか:ヒートポンプ

EVの暖房は、ガソリン車のように、エンジンの捨てる熱が使えません。そこで、使われるのが、ヒートポンプです。

ヒートポンプは、熱を作るのではなく、熱を運ぶ機械です。エアコンの、冷たくするしくみを、逆向きに使って、外の空気や、部品の熱を、車内や電池へ運びます(これは一般的な説明です)。

テスラは、ヒートポンプを搭載した車と、そうでない車があります。テスラのマニュアルは、「ヒートポンプがある車かどうかは、画面の Controls > Software > Additional Vehicle Information で確認できる」と書いています。また、ヒートポンプ搭載車は、寒い日のSupercharger充電中に、無臭の蒸気が、前方から出ることがあると説明しています(正常です)。

4. オクトバルブ:冷却液の行き先を、1つのバルブで切り替える

テスラのModel Yでは、オクトバルブ(Octovalve)と呼ばれるバルブが、熱管理の中心にあります。

ラフバラ大学の論文は、テスラの特許をもとに、こう説明しています。

  • 1つのヒートポンプが、キャビンと冷却液の両方に作用し、両者をつなぐ。
  • 8つのポートを持つ回転バルブで、冷却液を、5つの異なるループに流せる(特許の図では4つのループが示されている)。
  • 熱は、キャビン、パワートレイン、外気の間を、行き来できる。

論文は、このしくみを、シミュレーションで、ふつうのEVの廃熱回収と比べています。その要旨は、暖機中の消費エネルギーと電池の負荷を、大きく減らせる。ただし、暖機にかかる時間は、長くなるというものです。

オクトバルブのイメージ。1つのバルブが、電池、モーター、キャビン、外気の間で、冷却液の行き先を切り替える。特許では8つのポート、5つのループ(論文による)
図3:オクトバルブのイメージ(AI生成。実際の形や配管とは異なります。論文による)。

ただし、注意があります。

  • 論文が引用している、量産品のCTスキャンは、Sandy Munro氏(第三者)が公開したものです。それによると、量産品のバルブは、状態が4つしかなく、特許の状態数とは合いません。「特許と量産品は、動き方がおおむね同じ」とも、書かれています。
  • テスラが、オクトバルブを、公式に説明した資料は、この記事では確認できていません。
  • 「航続距離が10%延びた」という報道がありますが、原本を確認できていないので、書きません。
筆者の読み解き(確認した事実ではありません)

論文によると、EVは「捨てる熱が少ない」ので、熱を無駄にせず、うまく集めて使うことが、効いてくるようです。オクトバルブは、そのために、行き先を、細かく切り替える装置に見えます。ただし、これは論文と特許の説明をもとにした、私の理解で、テスラの公式な説明ではありません。

よくある質問

EVは、寒いと、本当に、航続距離が下がるのですか?

米国エネルギー省のページによると、下がります。ヒーターを使うと最大41%、ヒーターを使わなくても、約12%です(2019年のAAAの調査にもとづく推定)。車種や条件で、変わります。

回生ブレーキが、寒いと効きにくいのは、なぜですか?

テスラのマニュアルは、電池が冷えているとき、回生ブレーキが制限されることがある、と書いています。理由の詳しい説明は、確認できていません。

Model 3にも、オクトバルブはありますか?

確認できていません。この記事の論文は、Model Yについて書いています。

急速充電は、寒いと、何分遅くなりますか?

具体的な時間は、確認できていません。テスラは、ナビで充電場所へ向かうと、電池を予熱して、充電時間が短くなる、と説明しています。

まとめ

  • EVの熱の話は、冷やすと温めるの2つ。電池、モーター、インバーターは、液冷(Model 3のマニュアル)。
  • 電池は、15〜35℃で使うと、劣化が最小になる(論文が、他の研究を引用)。
  • 電池が冷えると、蓄えたエネルギーの一部が使えず、回生ブレーキ、加速、充電の速さが制限されることがある(テスラのマニュアル)。
  • ヒーターを使うと、航続距離は最大41%、使わなくても約12%下がる(FuelEconomy.gov、2019年のAAAの調査にもとづく推定)。余分に使うエネルギーの約3分の2は、キャビンの暖房。
  • ヒートポンプは、熱を作るのでなく、運ぶ機械。ヒートポンプのある車とない車がある(マニュアル)。
  • オクトバルブ(Model Y):8つのポートの回転バルブで、冷却液を5つのループに流せる(特許、論文による)。公式の説明は、未確認。

次の記事:EVの目と頭脳、「情報の流れ:カメラ→コンピューター」を、順番に見ていきます(準備中)。

出典(確認日 2026-10-14)

この記事は、科学技術の学習を目的としたもので、投資の助言ではありません。事実と筆者の読み解きは、区別して書いています。図はAIで生成したイメージです。